~梅雨や夏のカゼ、お腹のカゼに用いる漢方薬~
梅雨から夏に使用機会が増える方剤のひとつが、藿香正気散です。
夏のカゼ、お腹のカゼ、
それから、クーラーが効きすぎている部屋で過ごして具合が悪くなったり
朝起きたら寝冷えによって腹痛や下痢したり
暑いからと、冷たいものばかり食べたり飲んだりしたせいで、下痢したり、体がだるくなったり、食欲が落ちたり、など
夏にみられる体の重だるさ、胃腸の弱り、食欲低下、下痢などに、漢方では「湿」の影響と考えられるものがあります。
「湿」が、気の巡りのジャマをして様々な症状を起こす原因です。
そしてその「湿」を除湿させてくれる方剤が、藿香正気散。
藿香正気散は…
藿香(カッコウ)を主薬とし、除湿によって気の乱れを正す、という方剤です。
効能効果
- 夏の感冒、夏の下痢(夏季の胃腸炎)、暑気あたり、吐き気、嘔吐、食欲不振
- 急性胃腸炎
- 冷たいものの摂りすぎによる下痢、冷房で冷えたことによる下痢
【添付文書上の効能効果】
体力中等度以下のものの次の諸症:感冒、暑さによる食欲不振、急性胃腸炎、下痢、全身倦怠
構成生薬
構成生薬は、13種類。
※の5つで、痰飲(湿)を除くための二陳湯(にちんとう)をベースにした構成です。
各生薬の解説
少し複雑なので、分かりやすく次のように整理して解説します。
- 藿香
- 白芷・蘇葉
- 桔梗
- 白朮・厚朴・陳皮・大棗・生姜・甘草
- 大腹皮
- 半夏・茯苓(・厚朴・蘇葉・生姜)
①藿香(カッコウ)
シソ科です。
香水やアロマに詳しい方には、パチョリ(パチュリー)という方が馴染みがあるのかもしれません。
オリエンタルな香りと言われるような独特な芳香があります。
消化力を強め、消化不良、吐き気、食欲低下を改善します。
②白芷・蘇葉
解表薬です。
つまり葛根湯に配合される麻黄・桂枝のような発汗・解熱作用のある生薬です。
ただし、葛根湯に配合される麻黄・桂枝のような強い発汗作用はありません。
夏カゼは、冬にゾクゾクと悪寒をするようなカゼとは異なりますので、マイルドな解表薬でOKです。
白芷(ビャクシ)には鎮痛作用があり、頭痛を抑えます。
蘇葉(ソヨウ)の良い香りも、藿香の健胃の効果を助けます。
③桔梗
鎮咳・去痰作用があります。
④白朮・厚朴・陳皮・大棗・生姜・甘草
白朮を蒼朮に変更すると「平胃散」(へいいさん)です。
平胃散は、食べ過ぎたり飲みすぎたりして、胃もたれを起こし、消化不良、下痢をするなどのときに使う胃腸薬です。
その胃腸薬が、藿香正気散には含まれています。
⑤大腹皮
ヤシの実を包んでいる繊維質の皮の部分です。
一応、理気薬に分類されます。
タンニンを含んでいて、健胃・止瀉作用があり、つまりこれも消化不良に用いたり、下痢を抑える効果が期待されます。
⑥半夏・茯苓・厚朴・蘇葉・生姜
これは、配合割合は違いますが、構成だけみると「半夏厚朴湯」(はんげこうぼくとう)です。
半夏厚朴湯は、理気剤の代表です。
半夏・厚朴・生姜は、肺や胃の気の流れを整えますので、悪心、嘔吐、咳嗽、膨満感を抑えます。
茯苓が水代謝を改善させますが、
理気作用で、気が正常に動くことによって、よく湿も乾きます。
以上により、
夏の消化器症状を伴うカゼなどに藿香正気散がよく適しているということになります。
それと、大事な生薬の薬性について、
生薬の薬性
生薬の薬性においては、
大半の生薬が温性でありますので、
クーラーなどの冷気で体表が冷えて、体がだるい・頭が痛い・頭が重い、
アイス・果物・ビールなど冷たいものの摂り過ぎで消化管が冷えて、お腹が痛い・お腹が張る・下痢をする、
などの症状に対して、冷えてしまった体表や消化器を、適度に温めることで治すという効果があり、
よって藿香正気散が、夏に使用機会が増えている理由でもあります。
補足
- 独特の芳香があります。
- 下痢や吐き気などの症状が合えば、冬の感冒でも用いられます。
- 下痢や嘔吐のあるときは、まずは水分補給を。
- 体質的にいつも冷えやすくて、胃腸が弱く、腹痛や下痢を起こしている方は人参湯(にんじんとう)などを検討してください。
- 残念ながら、医療用(保険適用)の藿香正気散のエキス製剤はありません。
もし、医療用のエキス製剤で藿香正気散に近いものを探すとしたら、香蘇散+平胃散を試してみてください。
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