じんましん(蕁麻疹)の漢方薬
原因不明のかゆみ・発疹。繰り返すじんましんに、内側からの根本アプローチ。
じんましんは、突然皮膚に赤い膨らみやかゆみが現れ、数時間で消えることもあれば、慢性的に繰り返すこともあります。
西洋医学では抗ヒスタミン薬で症状を抑えることが多いですが、根本的な再発予防は難しい場合があります。
漢方では、じんましんを「風」「湿」「熱」「血虚」などの体質的要因から捉え、症状の背景にある体内バランスの乱れを改善します。煎じ薬を用いた体質調整で、かゆみの出にくい体を目指します。
症状の原因
じんましんは、皮膚に突然発症するもので、強い痒みを伴い、赤く膨れます。
通常は数時間以内に、長くても数日以内には消失し、痕跡は残りません。
何らかの刺激によって起こるわけですが、原因は様々で、ストレスによるものや、原因不明のものも多くあります。
【西洋医学的な原因】
- アレルギー反応(食べ物・薬・花粉・ダニなど)
- 温度変化や物理的刺激(寒冷・発汗・摩擦など)
- 感染症やストレス
- 原因不明(特発性)も多い
一時的なものだと、原因が違っていても、基本的には西洋薬(抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬)が有効です。
漢方薬は、慢性的なものや再発を繰り返す場合に、体質や症状によって選ばれます。
【漢方医学的な原因】
突然あらわれて消える、かゆみが強いといった特徴は、漢方では体内に侵入した「風」と関連づけられます。つまり、じんましんそのものは「風邪」によって引き起こされていると考えますので、それに対応する漢方薬が使われます。
また、慢性的なものは「湿熱」や、「気滞」「血虚」が絡んでいることもあります。
- 風熱型:外からの風邪と熱が皮膚表面にこもり、急な発疹とかゆみを引き起こす
- 湿熱型:体内に湿と熱がこもり、じくじく感や熱感を伴う発疹が出やすい
- 気滞型:ストレスや感情の停滞で気の流れが悪くなり、発疹が繰り返す
- 血虚型:血の不足で皮膚の潤いや修復力が低下し、慢性的なかゆみを伴う
- その他:体力低下・冷え・水分代謝異常などが関わるケース
タイプ別の漢方薬例
1. 風熱型(急性・赤みと熱感が強いタイプ)
体質の特徴
突然、鮮やかな赤色の発疹が出て、強いかゆみと熱感を伴います。広範囲に広がることも多く見られます。
発症の背景(漢方的解釈)
外から侵入した「風邪(ふうじゃ)」と、体内で生じた「熱」が皮膚表面にこもり、血行や気の巡りを乱すことで炎症と発疹を引き起こします。風は移動性の症状をもたらすため、発疹の部位が短時間で変化するのも特徴です。
代表的処方と作用
- 消風散(しょうふうさん)
…皮膚の風邪と熱を取り除き、かゆみと赤みを鎮めます。皮膚の表面と内部のバランスを整える作用があり、炎症の広がりを防ぎます。かゆみが強く、発汗後に悪化したり、温まると増悪する場合に適します。 - 銀翹散(ぎんぎょうさん)
…清熱解毒作用に優れ、急性期の熱症状や発疹に適します。喉の違和感や軽い発熱を伴う場合にも用いられます。
2. 湿熱型(地図状に膨らむ・熱感のあるタイプ)
体質の特徴
発疹が湿っぽく、盛り上がるような湿疹。膨らんだ部分が地図状に広がります。紅みとかゆみが強く、気温や湿度の高い日に悪化しやすい傾向があります。
発症の背景(漢方的解釈)
消化吸収や水分代謝の低下によって生じた「湿」と、体内の「熱」が結びつくことで、皮膚に炎症と湿潤をもたらします。湿は停滞性があるため、症状が長引きやすく、発疹部位の範囲も広がる傾向があります。
代表的処方と作用
- 茵陳五苓散(いんちんごれいさん)
…湿熱を取り除き、水分代謝を改善することで皮膚の症状を軽減します。慢性化した湿熱にも対応可能です。お酒のあとにじんましんが出るタイプにも用いられます。 - 清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)
…上半身にこもった湿と熱を取り、赤み・腫れ・かゆみを鎮めます。顔や首に症状が集中する場合に有効です。
3. 気滞型(ストレス・感情の停滞で悪化するタイプ)
体質の特徴
発疹が繰り返し同じ部位に出やすく、精神的ストレスや感情の高ぶりが続いたとき(もしくは逆に緊張が解けたとき)に悪化します。胸や脇の張り感、ため息が多い、便通の不安定さを伴うこともあります。
発症の背景(漢方的解釈)
精神的な負担や生活習慣の乱れで「気」の流れが滞り、体内の熱や湿が発散できず皮膚に停滞して症状を引き起こします。特に肝の気の停滞(肝鬱)は皮膚症状の再発に関わります。
代表的処方と作用
- 加味逍遙散(かみしょうようさん):肝の気を巡らせ、ストレスによる発疹やかゆみを改善します。自律神経のバランスを整える効果もあります。
- 小柴胡湯(しょうさいことう):気の流れを改善し、慢性化した皮膚症状に対応します。疲れやすい・胃腸の調子が不安定な方にも向きます。
4. 血虚型(慢性・乾燥やかゆみを伴うタイプ)
体質の特徴
肌が乾燥してかゆみを感じやすく、掻くと赤みが出て治りが遅い。疲れやすく、顔色が悪いといった全身症状を伴うこともあります。
発症の背景(漢方的解釈)
「血虚」により皮膚への栄養と潤いが不足し、バリア機能が低下。ちょっとした刺激でもかゆみや炎症が起きやすくなります。長期の病気や過労、出産、無理なダイエットが誘因になることもあります。
代表的処方と作用
5. その他(体力・冷え・水分代謝異常など)
じんましんの中には、上記4タイプに当てはまらない、または複数の要素が重なったケースもあります。
- 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう):あまり特徴のない慢性蕁麻疹、化膿や腫れを伴う発疹に
- 五苓散(ごれいさん):浮腫が顕著、皮膚描画症、ミミズばれ
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):体力低下(気虚)、疲れると出やすい慢性蕁麻疹
- 香蘇散(こうそさん):魚やエビカニなどによる蕁麻疹
- 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう):寒冷で悪化するじんましん(寒冷蕁麻疹)に
など、体質・体調に応じて適した処方をご提案いたします。
タイプ別 養生法(生活・食事)
じんましんは体質や原因によって現れ方が異なりますが、共通して言えるのは「日々の食事と生活習慣の積み重ね」が症状の改善と再発予防に直結するということです。タイプごとの特徴に合わせて食材や調理法を選び、控えるべき食品を見極めることで、皮膚への負担を減らし回復を早められます。また、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理はすべてのタイプで有効です。漢方薬による体質改善とあわせて生活面の見直しを行うことで、より安定した肌の状態を保つことができます。
風熱型
風熱型は、体内にこもった熱が皮膚の炎症やかゆみを引き起こすタイプです。唐辛子や胡椒などの辛味、天ぷらやフライなどの揚げ物、アルコール類は熱を生じやすく、症状の悪化につながりますので控えましょう。代わりに、きゅうりやセロリ、大根といった清熱作用のある野菜を積極的に取り入れると、体内の余分な熱を鎮めるのに役立ちます。また、睡眠不足は免疫バランスを乱し炎症を悪化させるため、十分な休養を確保することも大切です。
湿熱型
湿熱型は、体内の余分な湿気と熱が皮膚症状を長引かせるタイプです。脂っこい料理や甘いお菓子、清涼飲料などは湿と熱を助長するため控えましょう。代わりに、はと麦・緑豆・冬瓜といった利湿作用のある食材を取り入れると、体内の余分な水分を排出し、湿熱の停滞を改善します。これらは体を冷やしながら炎症を鎮める効果もあります。
気滞型
気滞型は、ストレスや感情の抑圧により気の巡りが滞り、症状が繰り返しやすいタイプです。暴飲暴食は胃腸の負担となり、気の流れをさらに停滞させるため避けましょう。食事では、みかんやグレープフルーツなどの柑橘類や、しそ・ねぎ・パクチーなど香りの良い香味野菜を取り入れると、気の巡りが良くなりストレスによる悪化を防ぎやすくなります。また、適度な運動や趣味の時間を持つなど、日常的にストレス発散の工夫をすることも重要です。
血虚型
血虚型は、血が不足して皮膚への栄養や潤いが行き届かず、かゆみや回復の遅れを引き起こすタイプです。食事では、レバーや赤身肉、ほうれん草、黒ごまなど、血を補う作用のある食材を意識的に取りましょう。特に鉄分や葉酸、タンパク質が豊富な食品は、血の生成を助け、皮膚の修復力を高めます。冷たい飲食は胃腸を冷やして消化吸収を妨げるため控え、温かい食事を中心にするとより効果的です。
