三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)の解説
「黄芩」と「黄連」を配合する芩連剤の瀉心湯類のグループで
黄芩・黄連・大黄の、黄がつく生薬3つで構成されるため「三黄瀉心湯」。
清熱薬のみで構成されており、瀉心湯類の中では特に実証向きの方剤です。
「心」(または「胃」)の熱をすばやく取り去るのが目的の漢方薬です。
五臓でいうところの「心」は、神志(意識・精神)や血脈(血の循環)をつかさどります。また「心」は 五行論の木火土金水で言えば、「火」です。
心が熱をもつと、(火が燃えているときのように)その熱はどんどん体の上の方(頭部)へ広がります。
顔面が紅潮する、目が血走る、鼻血が出やすい、頭に血がのぼる、カッカする、興奮が抑えられない、眠れない、などが起こりやすくなります。
そんなときに三黄瀉心湯が用いられます。
「三黄散」や「三黄丸」と言われるものも、剤型が異なるだけで、生薬の構成はこの三黄瀉心湯と同じものです。
頓服で使用されることも多く、逆に長期間服用することはあまりありません。
生薬の構成とはたらき
炎症を抑える、興奮を鎮める、という清熱・瀉火の効能を期待しており、実熱に対する基本処方となります。
黄連は心火を瀉す作用に優れています。黄芩も上焦(心や肺のあたり)の熱をとります。
大黄は清熱と瀉下作用があるのですが、これは蠕動運動を起こすことで、身体の上部に充血している熱のこもった血を下の方へ降ろしてくるはたらきをし、そしてその熱を便とともに体から出す、と理解されます。
3つの生薬を併用することにより、火熱を抑える作用を強めています。
また同時に、熱による気滞も解かれます。
効能・適応症状
- 出血(鼻血・吐血・痔などで、主に動脈性の鮮紅色の出血)
- ほてり、のぼせ、イライラ、耳鳴り、不眠
- 頭痛、肩こり、高血圧、更年期障害
- 口内炎、口角炎、口臭、歯肉出血、味覚障害
- 抗がん剤や放射線療法による粘膜障害
- 便秘
添付文書上の効能効果
【ツムラ】【クラシエ】他
比較的体力があり、のぼせ気味で、顔面紅潮し、精神不安で、便秘の傾向のあるものの次の諸症:
高血圧の随伴症状 (のぼせ、肩こり、耳なり、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘、更年期障害、血の道症
【コタロー(細粒)】
のぼせて精神不安があり、胃部がつかえて、便秘がひどいもの、あるいは鮮紅色の充血、出血の傾向を伴うもの。
高血圧、動脈硬化、高血圧による不眠症、脳いっ血、吐血、下血、鼻出血、常習便秘。
【コタロー(カプセル)】
のぼせて不安感があり、胃部がつかえて便秘がひどいもの、あるいは充血または出血の傾向を伴うもの。
高血圧症、動脈硬化症、脳いっ血、下血、鼻出血、常習便秘。
【薬局製剤】
体力中等度以上で、のぼせ気味で顔面紅潮し、精神不安、みぞおちのつかえ、便秘傾向などのあるものの次の諸症:
高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘、更年期障害、血の道症
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことです。
黄連解毒湯との違い
黄連解毒湯と三黄瀉心湯の作用は似ています。
どちらも清熱作用に優れています。
三黄瀉心湯の生薬の構成は、
黄連解毒湯の黄柏・山梔子を大黄に変えたものに相当します。
(黄柏は下焦の熱をとります)
つまり、黄連解毒湯と比べた場合、
三黄瀉心湯には黄柏・山梔子が含まれないので、腎や膀胱系への抗炎症作用は弱くなり、
その代わりに大黄が配合されるので瀉下作用は強くなります。
よって一般的には、
便秘がなければ黄連解毒湯
便秘があれば三黄瀉心湯
または、
下部の出血(下血や血尿)のときは黄連解毒湯
上部の出血(鼻血や吐血)のときは三黄瀉心湯
というような使い分けがよくされます。
三黄瀉心湯の方が、大黄の瀉下効果があるので、熱をとる作用は強力で即効的な感じです。(もちろん下痢のおそれがありますが)
飲み方のポイント
一過性の症状には頓服で用いることができます。
熱がこもっていたり出血のときに、熱いものを飲むのは好ましくないので、エキス製剤の場合は、冷たい水で服用するのが適切です。
味も苦いので、冷たい方が飲みやすいです。
煎じ薬の場合、しっかり煎じるかどうかは作用の強さに影響してきますが、濃く煮出す必要はなく、短時間煎じるだけでも構いません。
もともとが(↓の出典のところで書きますが)出血があったときの緊急時の薬なので、煎じるのではなく、本来は振り出しで(急須でふつうのお茶をいれる時みたいに)作って使用されていたようです。
副作用・注意点
個人差もありますし、メーカによって大黄の品種や配合量が異なり、瀉下作用の強さは一概に言えませんが、もし下痢の副作用が心配な場合は、黄連解毒湯から使用してみてください。
もちろん便秘をしていないときでも使って構いません。
しかし、胃腸をフォローする生薬が配合されていないため、あきらかに胃腸虚弱の方は連用を避けてください。
冷えの症状が強い人には適しません。
お腹が冷えすぎないように、場合によっては、大建中湯、呉茱萸湯、人参湯などを少し併用された方がいいかもしれません。
出血が持続的な場合は、三黄瀉心湯ではなく他の治療が必要です。
イライラや興奮による血圧の上昇を抑える効果がありますが、すでに降圧剤を服用中の方は自己判断で降圧剤の代用として長期に使用することはやめてください。
全体的に寒性・燥性です。黄芩も含まれます。念のため間質性肺炎の副作用にも注意しておきましょう。
同じ三黄瀉心湯のエキス製剤でも、メーカーによって各生薬の配合比率や1包の分量、用法用量などにも違いがあります。ですのでメーカーを変更した際は、効き方も変わってくるおそれがあることを想定しておかなくてはいけません。
三黄瀉心湯の出典
『金匱要略』(3世紀)
「心気不足の吐血、衂血は瀉心湯之を主る」
※心気不足→心気不定(精神や血脈をつかさどる「心」が安定していない状態)のこと
※衂血(じくけつ、じっけつ)=鼻血
「心」が安定せずに、心煩したり興奮しやすくなったりするだけでなく、心火が燃え上がりことで、血熱により血脈(血の流れ)を乱して、体の上部に鼻血や吐血などの出血を引き起こしたときの方剤です。
現代では「三黄瀉心湯」と呼びますが、もともと『金匱要略』ではたんに「瀉心湯」と書かれています。ただ、(↓にもあるように)〇〇瀉心湯と名のつく方剤が他にもたくさんあるので、区別しやすいようにやはり「三黄瀉心湯」と呼ぶのが適当だと思います。
ちなみに『金匱要略』では、大黄の配合量が他より多く、大黄が主薬の方剤です。
なお、『傷寒論』に記載のある「大黄黄連瀉心湯」もほぼ同じものなので、金匱要略の「瀉心湯」と傷寒論の「大黄黄連瀉心湯」を含めたものが現在の「三黄瀉心湯」とする、ような見方もされています。
その他の瀉心湯類
『傷寒論』『金匱要略』のその他の瀉心湯について
- 大黄黄連瀉心湯:大黄・黄連のみ。※黄芩が含まれません。が、実際には黄芩を加えて(今の三黄瀉心湯として)使っていたという説が有力。
- 附子瀉心湯:(三黄)瀉心湯に附子を加えたもの
- 半夏瀉心湯:半夏・黄芩・黄連・乾姜・人参・大棗・甘草
- 生姜瀉心湯:半夏瀉心湯の乾姜の量を減らし、生姜を加えたもの
- 甘草瀉心湯:半夏瀉心湯の甘草を増量したもの
心臓と胃のあいだ、つまりみぞおち辺りのつかえ感(心下痞:しんかひ)を、取り除く(瀉す)のが、瀉心湯に共通の作用です。
痞えているのは「気」ですので、実際に何か物体が詰まっているのではなく、必ずしも痞えている部分が硬く張っていたり痛かったりするわけではありません。
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