真武湯の解説
真武湯は、体力の低下があり、身体が冷えている人の、
下痢や腹痛、めまい、浮腫(むくみ)などの症状に用いられます。
新陳代謝を促進させて身体を温める附子や、
利水作用のような水分代謝を改善させる茯苓や朮などが配合されている漢方薬です。
真武湯は、もとは玄武湯という名前であったとされています。
小青竜湯や白虎湯(白虎加人参湯)などと同じように、
古代中国の東西南北を守護する四神の名前が付けられた漢方薬の一つです。
生薬の色と、五行論の関係性を簡単に記しますと、↓のようになります。
- 麻黄-青-春-青竜(東)
- 大棗-赤(朱)-夏-朱雀(南)
- 石膏-白-秋-白虎(西)
- 附子-黒(玄)-冬-玄武(北)
よって、附子を配合する漢方薬として重要な存在なのが、この真武湯です。
構成生薬とはたらき
※漢方薬のエキス製剤に配合されている附子は、減毒処置が施された「ブシ末」が用いられます。
真武湯において附子は欠かせません。
慢性病で体力が低下していたり、または老化などになって、身体の機能が低下、新陳代謝が衰えているとき、
漢方的には「腎陽の不足」に対して、附子が使用されています。
また生姜も腎陽の回復を補助します。
さらに、腎陽(腎の陽気)の不足は、冷えとともに、
水分代謝も低下させています。
身体の水分のバランスに異常が起こります。
尿量が減少し浮腫(むくみ)が生じる。
胃腸の過剰な水は、下痢となる。
フラフラするめまい、動悸など。
これらに対して、附子とともに茯苓や朮で、利水作用を高め、
また朮や生姜は脾(消化器機能)を改善することで対応しています。
芍薬は、逆に身体に必要な水分(陰)を保持するようにサポートしています。附子とともに冷えによる疼痛を緩和する効果もあります。
添付文書上の効能効果
【医療用エキス製剤】
<ツムラ>
新陳代謝の沈衰しているものの次の諸症:
胃腸疾患、胃腸虚弱症、慢性腸炎、消化不良、胃アトニー症、胃下垂症、ネフローゼ、腹膜炎、脳溢血、脊髄疾患による運動ならびに知覚麻痺、神経衰弱、高血圧症、心臓弁膜症、心不全で心悸亢進、半身不随、リウマチ、老人性そう痒症
<コタロー>
冷え、けん怠感が強く、めまいや動悸があって尿量減少し、下痢しやすいもの。
慢性下痢、胃下垂症、低血圧症、高血圧症、慢性腎炎、カゼ。
<JPS>
新陳代謝が沈衰しているものの次の諸症:
諸種の熱病、内臓下垂症、胃腸弛緩症、慢性腸炎、慢性腎炎、じんましん、湿疹、脳出血、脊髄疾患による運動および知覚麻痺
<三和>
新陳代謝機能の衰退により、四肢や腰部が冷え、疲労倦怠感が著しく、尿量減少して、下痢し易く動悸やめまいを伴うものの次の諸症:
胃腸虚弱症、慢性胃腸カタル、慢性腎炎
【市販エキス製剤】
体力虚弱で、冷えがあって、疲労倦怠感があり、ときに下痢、腹痛、めまいがあるものの次の諸症:
下痢、急・慢性胃腸炎、胃腸虚弱、めまい、動悸、感冒、むくみ、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ
真武湯の特徴
適応範囲が非常に広いので、添付文書の効能書きだけでは分かりづらいかもしれませんが、
冷えを温めて全身の循環機能を改善する附子(散寒薬)と
身体の水分バランスを正す茯苓(利水薬)、
この2つの生薬の作用が、真武湯の作用の特徴だと言えます。
一般的に、附子は(腎陽虚の)新陳代謝や体力の低下した人に用いる生薬であるので、
真武湯についても、高齢者の方がよく適しまして、逆に若くて元気な人や子供にはあまり使われることはありません。
例えば下痢に関していえば、出してしまったあとは割とスッキリする下痢があるのに対して、真武湯の場合、下痢したあとは疲れています。
また、夜明け前などの気温の低くなる時間帯に起こりやすい水様性下痢は、五更瀉と言って(脾腎陽虚の)特徴のひとつです。
症状は慢性的なものが多いので、服用する期間は、頓服的な使用ではなく、やや長い期間が必要になります。
補足(副作用や注意点)
附子
附子による主な副作用症状は、動悸、のぼせ、舌のしびれ等です。
エキス製剤で使用されている附子は減毒加工されているので、あまり附子中毒の心配はいりませんが、過量に服用した場合には注意してください。⇒附子について詳しく
ただ、この真武湯の効果をきちんと得るためには附子の作用が重要ですので、むしろあえて真武湯にさらに附子末が追加されることもあり得ます。
真武湯を服用した後に、まれに悪心などの症状が起こる場合もありますが、附子中毒というよりも、一般的な薬と同様の単なる胃腸障害であることが多いです。
人参湯と真武湯の違い
「冷えと下痢」という点では人参湯と似ていますが、人参湯の特徴となる生薬は乾姜と人参です。お腹の冷えが主です。人参湯に利水薬は配合されていません。
人参湯:冷えが主⇒尿量増加、冷えて蠕動運動が亢進し下痢⇒胃腸を温めて治す
真武湯:水分代謝の低下が主⇒尿量減少、過剰な水のため下痢⇒利水させて治す
※もしエキス製剤で、真武湯と人参湯が同時に処方された場合、エキス製剤にはない「茯苓四逆湯」という方剤を意図して処方されている可能性があります。ですのでその場合は、2つの漢方薬を飲み分けるのではなく、一緒に服用するようにしてください。
出典
『傷寒論』(3世紀)
太陽病汗を発し、汗出ずれども解さず、其の人仍発熱し、心下悸し、頭眩し、身瞤動し、振振として地に擗れんと欲する者は、真武湯主を之る。
⇒太陽病で発汗させ、汗がでても回復せず、その病人はなお発熱し、心下(みぞおち)に動悸がある。めまいがして体の筋肉がピクピクひきつり、フラフラと揺れて地面に倒れそうになる者は、真武湯で治療する。
少陰病、二三日已まず、四五日に至り、腹痛、小便不利、四肢沈重疼痛し、自ら下利する者は、此水気有りと為す。其人或いは欬し、或いは小便利し、或いは下利し、或いは嘔す者は、真武湯主を之る。
⇒少陰病になって2~3日でも治らず、4~5日すると、腹痛、尿量の減少、手足が重く痛み、自然と下痢するのは、水気がある(身体に水分が多い)ためである。その人が或いは咳したり、或いは小便が良く出たり、或いはさらに下痢したり、或いは吐き気がする者は、真武湯で治療する。
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