六味丸(ろくみがん)の解説
六味丸は、八味地黄丸(八味丸)から、桂皮と附子の2つの生薬を除いて作られたもので、
名前のとおり、使われている生薬が6種類(六味)の漢方薬です。
別名を六味地黄丸または六味腎気丸。
八味地黄丸は、からだを温める作用のある桂皮と附子が配合されおり、「冷え」の症状があるときに適しているのに対して、
それらの生薬が配合されない六味丸は、逆に「ほてり」があるときに用いらます。
原典
『小児薬証直訣』(12世紀)
小児科の医学書です。つまり六味丸は、もともと子供用の薬です。
構成生薬
八味地黄丸から、桂皮と附子を除いたものに相当します。
三補と三瀉
「六味丸」、別名「六味地黄丸」は、腎陰虚証に対して使われます。
つまり腎陰の不足を補うための漢方薬です。
しかし、ただ補っているだけではありません。
六味丸の特徴は、三補と三瀉の併用、「補瀉併用」で構成されていることにあります。
「補」とは、足りないものを補う作用、
「瀉」とは、多いもの・余分なものを除去する作用のことです。
3つの補 | 3つの瀉 |
地黄(補腎陰) 山茱萸(補肝陰) 山薬(補脾) | 牡丹皮(瀉肝) 沢瀉(瀉腎) 茯苓(瀉脾) |
牡丹皮は代表的な駆瘀血薬でありますが、
清熱涼血の作用をもっていて、陰の不足による熱の症状(虚熱)を冷まします。
茯苓そのものはちょっと瀉の薬とは言い難いのですが、
沢瀉の利水作用と、茯苓の健脾作用により、水分の代謝を促し、余分にあって停滞した水液を除去します。
補う薬とともに、これら瀉の薬を加えることで、補ったあとの気血が停滞してしまうことを防ぎます。
これにより、三補の効果をより高めていることになります。
また、単なる補薬でないことが、長期間服用しても弊害の起こりにくい理由でもあります。
ただし生薬の構成比率でみると
三補のうち「地黄」の分量がもっとも多く、とくに「補腎陰」に重きを置いています。
効能・適応症状
添付文書上の効能・効果
【ツムラ】【クラシエ】他
疲れやすくて尿量減少または多尿で、時に口渇があるものの次の諸症:
排尿困難、頻尿、むくみ、かゆみ
【薬局製剤】
体力中等度以下で、疲れやすくて尿量減少又は多尿で、ときに手足のほてり、口渇があるのものの次の諸症:
排尿困難、残尿感、頻尿、むくみ、かゆみ、夜尿症、しびれ
六味丸の応用
添付文書の効能だけでは分かりにくいかもしれませんが
六味丸は、「腎虚を補う」とともに「虚熱を清する」ことができます。
とくに、腎陰虚による、のぼせ、ほてり、口渇があるときに適します。
夜間頻尿のため何度も起きて、そのたびに口渇で水を飲みたくなるような。
また、六味丸の適応証である「腎陰虚」とは、「腎精虚」を含んだものと考えられます。
腎精虚とは、骨・歯・脳・生殖などに必要な物質が、足りない状態です。
もともとは、こどもの発育不良に使われる方剤でしたが、
いまでは、老化現象としての、足腰のおとろえ、髪が抜ける、歯が抜ける、性欲が衰えるなどの症状にも使われています。
「腎陰虚」と「虚熱」という条件によって、具体的には↓のような症状への応用が考えられます。
- 排尿困難、頻尿、残尿感、夜間尿、浮腫
- 膝や腰のだるさ、腰痛、めまい感、耳鳴り、難聴、歯のぐらつき
- 寝汗、遺精、性的機能低下(勃起不全、早漏など)
- 体の熱感、手のひらや足のうらのほてり、かゆみ
- 無月経、経血量が少ない、無排卵
- 乳幼児・小児の発育不良や知能の発達不良
六味丸の加味方
六味丸の補陰の効果を基本として、その加味方が存在しますので
状況によって応用されることがあります。
注意点
冷えを伴う症状(腎陽虚)であれば、「八味地黄丸」を検討してください。
補陰(滋陰)の薬は、消化しにくいものが多くて、とくに「地黄」は服用後に食欲不振、下痢、胃もたれ、膨満感が出ることがあります。胃腸の弱い人は、少量から始めて様子をみてください。
また、カゼを引いたとき、邪気を追い出しにくくなるということで、服用を一旦止めた方がいい、とされています。
味に関して、地黄は甘味のある生薬ですが、山茱萸なども入っているので渋みと少し酸味もあり、もともとは子供用の薬といえども、お子さんには少し飲みづらいかもしれません。
通常は、長期間継続して処方されることが多いです。頓服などの使用での即効的な効果はあまり感じられないように思われます。
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