3-(3) 峻下逐水薬(しゅんげちくすいやく)
あまり馴染みのない薬かと思います。
瀉下作用が非常に激しい薬です。
瀉下薬と聞くと、ふつうは便秘を改善する薬というイメージをもつと思いますが、
この峻下逐水薬に分類される生薬は、便秘を改善するというよりも、むしろ下痢を引き起こさせることができる薬です。
下痢を起こさせるものがなぜ薬なのかというと、体内の水分など過剰なものや毒などを下から排出できるという意味では薬だからです。
体の水分を外に出させる薬は、例えば汗として出すための発汗剤、尿として出すための利尿剤があります。
そしてもう一つ、より強力に脱水させるのがこの峻下逐水薬です。
想定される症状は、腹水や胸水、浮腫などになります。
当然、激しく瀉下させると、正気も失い、体力が落ちていきますので、連用したり常用したりするものではありません。
用量の面でも慎重にならなければいけません。
日本で市販されている薬では、便秘薬の一部に少量のケンゴシ末が使われている以外、一般的な薬には配合されていません。
甘遂(かんすい)
トウダイグサ科Euphorbia kansui Liou の根
「かんつい」とも呼ばれます。
【帰経】肺 腎 大腸
【効能】瀉水逐飲 消腫散結
- 浮腫や腹水、胸水などの通常排出されにくい場所の水飲も瀉下(瀉水)するほど、作用が強い生薬です。
- 甘遂・大戟・芫花という3つの峻下逐水薬を併用することで、胸水や腹水の治療に用いられます。このとき脾胃を保護したり、作用が強烈になり過ぎないように、大棗10個を煎じたもので服用することになっています。⇒十棗湯(朱雀湯)
- 水熱互結(熱邪と水飲が胸部で結びついたもの)による結胸証(例えば胸膜炎など)に、大黄・芒硝と配合して用いられます。⇒大陥胸湯
- 有効成分が水に不溶であるため、煎じずに粉末のまま加えられます。
- また単味の粉末を外用薬として皮膚化膿性に用いられます。
※トウダイグサ科の植物は毒性の強い植物が多いことで知られます。トウダイグサ、トウゴマ、ポインセチア、ハツユキソウ、ノウルシ、センダイタイゲキなど。タピオカの原料であるキャッサバも毒抜きしてから使用されます。そして↓に出てくる大戟(たいげき)や巴豆(ハズ)もです。
大戟(たいげき)
トウダイグサ科Euphorbia pekinensis Rupr. の根
またはアカネ科 Knoxia valerianoides Thorel. の根
【帰経】肺 脾 腎
【効能】瀉水除湿 消腫散結
効能は甘遂とほぼ同じです。
芫花(げんか)
ジンチョウゲ科フジモドキの花蕾
【帰経】肺 腎 大腸
【効能】瀉水逐飲 袪痰止咳 殺虫療瘡
瀉水逐飲の効能は甘遂や大戟と同様で、薬効の強さは甘遂が一番強く、次に大戟で、芫花はそれよりも少し劣るようです。
しかし毒性はトウダイグサ科の甘遂や大戟よりも猛烈とのこと。一般には炒めたりして毒性を軽減させて用いられます。
袪痰の効能があるので、痰飲による咳嗽、寒湿型に属する気管支炎に有効であるとされます。
また外用すれば、頑癬(たむしの類)などに効果があるようです。
巴豆(はず)
トウダイグサ科ハズの成熟種子
【帰経】胃 大腸 肺
【効能】瀉下冷積 逐水退腫 袪痰利咽
- 辛熱の性味をもつ点が、他の瀉下薬と異なる特徴です。寒積を峻下する効能があります。よって、寒邪食積によって腸管が塞がって、腹痛、腹満、お腹の冷え、便秘などに、乾姜や大黄と用いられます(三物備急丸)。このとき熱いお湯や熱いお粥は摂らない方がよい。
- 逆にもし巴豆の激しい瀉下作用によって下痢が止まらなくなってしまったときは、冷たい水を飲んだり冷たいお粥をすすり、巴豆と反対の効能をもつ黄連や黄柏で対応します。
- 水腫を引き込む効果については、住血吸虫症による腹水貯留の治療に。また痰が気道に塞がって呼吸困難に陥ったときなどに応用されていたようです。
- 巴豆と杏仁の二味で作る「走馬湯」は、何か有毒物質を口などから摂取したかもしないときに、吐き下しをさせる救急薬として使用されていたこともあります。
- 巴豆を細かくして油分を絞り毒性を軽減(製霜)したものを巴豆霜と言います。
※ハズの種子からとれる脂肪油(ハズ油)はクロトン油とも言われます。クロトン油は1滴口に入れるだけで、口腔内の灼熱、胃腸の炎症、腹痛、激しい下痢が起こります。峻下成分とされるのはホルボール(phorbol)で、皮膚にかかった場合も下痢を起こすおそれがありますし、水疱が生じたり、皮膚がんのリスクもあります。
巴豆も日本では毒物に指定されていて、通常便秘薬として使用されることは非常に稀だと思われます。やむを得ず便秘に使用する場合でもごく少量をごく短期間、細心の注意をはらって使う必要があります。
牽牛子(けんごし)
ヒルガオ科アサガオの成熟種子
【帰経】肺 腎 大腸
【効能】行水通便 殺虫消積
- 現在ではアサガオと言えば、鑑賞するもの、または小学生が夏休みに持って帰らされるもの、ですがもともとは薬用のため日本に伝わったと言われています。成長の観察はした方が良いですが、種は興味本位で食べてはいけません。
- 少量を使用するときは緩下剤として通便効果があります。
- が、多用すると峻下薬として水のような下痢が起こります。
- 利尿作用もあって、浮腫などの水湿の邪を下に降ろし、尿と便の両方から排出します。
- 殺虫消積の効能で、虫積(寄生虫)の腹痛に檳榔子などと応用されます。
- 煎じ薬だと瀉下作用が減少するので粉末や丸剤で使用されることが多いです。(瀉下作用を有する成分ファルビチンが水に不溶のため)
- 日本では市販の便秘薬の一部に「ケンゴシ末」が使用されています(七ふく、百毒下し等)。
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