15.平肝熄風薬
平肝熄風薬は、肝陽を平定させ、(内風を)熄風させる薬のことです。
熄は、「火が消える」「灰に埋めた炭火」などの意味がある漢字で、
内風の症状をしずめることを「熄風」と言います。
内風というのは、陰虚や血虚などの虚証、もしくは高熱の持続など熱盛の症状をともなって発症します。
ですので平肝熄風薬を知るために、
まず内風について、
それから平肝熄風薬の対象となる典型的な症状、肝陽上亢や肝風内動の証のこと、
そして平肝熄風薬の使い方や注意点をまとめておきます。
外風と内風を区別する
病気の原因が分からなかった当時の人は、あるとき突然発症する病気を、目に見えない「風の邪」に侵されたと考えました。(今でも西洋医学に「風」がつく病名がいくつか残っています)
その風は、「外風」と「内風」とに区別されます。
風邪(ふうじゃ)のように、体の外から何らかの侵襲によって症状が生じるものを「外風」というに対して、
慢性疾患とか熱性病の過程で、人体の内側(機能)に障害が生じるもの(わりと重篤なものが多い)が「内風」です。
外風を治すためには、その邪を疏散(発散)させる方法をとるので、使用するのは解表薬や、袪風湿薬です。
一方、内風の場合は、平熄させて治す方法をとり、その薬が平肝熄風薬となります。
内風の特徴
風の邪による症状は、「突然発症する」「変化が早い」「人体の表面や上部に起こりやすい」という特徴があります。
特に内風に含まれる症状は、
めまい、ふらつき、頭痛、
高熱による、意識障害、けいれん、ひきつり、後弓反張
また、重篤なものでは、顔面神経麻痺、半身不随など(外風が末梢性麻痺が多いのに対して)中枢性の麻痺があります。
肝陽上亢と肝風内動
平肝熄風薬の対象となるのは、肝陽上亢や肝風内動の証がみられるものです。
肝陽上亢
肝の陰液不足があり、その程度がひどいために、相対的に肝陽が亢進して、熱証(虚熱)が生じます。
特に上半身、顔面、頭部の症状としてみられます。
- 頭痛、めまい、顔面紅潮、目の充血、口渇、口が苦い
- のぼせ、イライラ、怒りっぽい、動悸
- 不眠、入眠困難、耳鳴り
- 高血圧など
腎陰虚をともなうこともあります(肝腎陰虚)。
その場合は、足腰のだるさ、手足のほてり、寝汗、忘れっぽいなども伴います。
そしてもちろん、根本的には、肝の陰液不足ですので、一般的には血虚の体質があります。
肝風内動
さらに陰液の消耗が著しく、肝陽が過度に亢進したものです。
体の中心にあるいつまでも消えない炭火によって頭部が熱せられている感じ(肝陽上亢)のものが、
水分がなくなって勢いよく燃え出し、熱風が発生して頭部を襲ったような感じ(肝風内動)になります。
典型的な例は、高血圧(肝陽上亢)⇒脳卒中(肝風内動)ですが、
肝風内動には3つのタイプがあります。
肝陽化風:肝陽上亢の過度によるもの。激しい頭痛、めまい、ろれつがまわらない、意識障害、顔面神経麻痺、片麻痺など
熱極生風:高熱がつづき陰液が消耗されて生じるもの。いわゆる熱性けいれん。はげしい口渇、硬直、ひきつり、後弓反張など。
血虚生風:熱証は顕著ではないが、血虚の症状をともなった、頭のふらつき、手足の筋肉のひきつりなど。
その他、破傷風なども該当するかもしれません。
平肝熄風薬の特徴
生薬の特徴は、
味は鹹味や甘味のものが多く、
性質は(一部例外はあるが)肝陽上亢や肝風内動に使用されるので、一般に寒涼性に属します。
特に、動物性の生薬もたくさん含まれていて
肝陽上亢に用いる平肝潜陽の(肝陽をしずめる)効能をもつものは貝類が多く、
肝風内動に用いる熄風止痙の効能をもつものには虫類が多いのも特徴です。
虫類のものは、通絡の効能もあり、風湿痺の疼痛やしびれ等にも応用されます。
配合や注意点
上述したように、肝陽上亢や肝風内動などの証は、それを引き起こす大元の原因があることが多いので、
実際に平肝熄風薬を用いる場合は、病因に応じて適切な生薬と配合する必要があります。
高熱によるものは清熱瀉火薬、
血虚によるものは補血薬、陰虚によるものは補陰薬、など。
動悸や不眠など心神不寧をともなうときはよく安神薬も併用されます。
寒涼性の薬は熱証への適応であり、また脾虚に対しては注意して用いなければいけません。
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