女神散(にょしんさん)の解説
女神散は、日本で生まれた漢方薬です。
歴史的には室町時代の金瘡(刀傷)の薬に由来します。
戦による出血に使われていた薬です。(当時は女神散というような名前はなかった)
時代とともに、中身の生薬が少しずつ変わりながら、
女性の産後の出血に応用されたり、今では戦で使うことはありませんから、いわゆる「血の道症」といわれる生理に関連した諸症状に使われるようになっています。
女神散という名前が付いて、現在のように使われるようになったのは明治時代、浅田宗伯によるものです。
女神ではなくて、女性に用いると神の如くよく効く薬という意味です。如神散ともいわれます。
構成生薬
香附子、檳榔子、丁子、木香が理気作用⇒気を巡らせます。
桂皮は気の上衝(のぼせ)を抑えます。
当帰と川芎は活血作用で、血を巡らせます。
黄連と黄芩が入りますので芩連剤の仲間に入れることができます。清熱作用があります。
本来は大黄も配合されていることを考慮すれば、黄連・黄芩・大黄で、三黄瀉心湯がベースにあると考えられます。
三黄瀉心湯は、血熱(血が熱を帯びたとき)で、のぼせや顔面紅潮などがあり、鼻から出血しやすかったり、精神不安、イライラを鎮静したいときに使われます。
その血熱の大きな原因となっているのが、気滞であり、
気がうっ滞すれば、血の巡りもわるく、体に熱がこもりやすくなります。
女神散には、気や血を巡らせる生薬も配合されており、
(血熱をともなう)精神不安やイライラを、その根本から一緒に治そうとしている構成になっています。
効能効果
【医療用エキス製剤】(ツムラ)
のぼせとめまいのあるものの次の諸症:
産前産後の神経症、月経不順、血の道症
【薬局製剤】(煎じ薬)
体力中等度以上で、のぼせとめまいがあるものの次の諸症:
産前産後の神経症、月経不順、血の道症、更年期障害、神経症
女神散のめまい
女神散の適応には、めまいも含まれます。
めまいの漢方薬で代表的な、苓桂朮甘湯や、半夏白朮天麻湯など、これらはおもに水滞(水毒)が関連します。
女神散にも苓桂朮甘湯と共通する桂皮・朮・甘草も入っていますが、茯苓が入りません。
女神散では、水をさばく作用は弱いです。
ですので女神散の場合は、水滞ではなくて、気滞やそれによる血熱によって、のぼせをともなうめまいに適応となります。
加味逍遙散と女神散の違い
更年期で熱感やイライラに使うものとしては、加味逍遙散が浮かびます。
よく言われる使い分けとしては、
加味逍遙散は、どちらかというと女神散よりも虚証向きで、症状は軽めだが多彩な症状を訴える人(不定愁訴)。
それに対して女神散は、やや実証で、症状が変わらず限定(固執)している人に向いている、と言われます。
女神散の構成生薬からみても、理気薬の配合が多いので、長期間おなじ症状に悩まされて、気うつの傾向が強くなっているものによいのかもしれません。
また、加味逍遙散は血熱というよりも、陰虚(血虚)による虚熱の傾向があります。
副作用・注意点
のぼせや熱感のあるときに使用する薬ですので、冷服でかまいません。
エキス製剤には大黄が含まれません。逆に煎じ薬では通常(少量だけ)大黄が入っていますので、下痢のとき、もしくは、もともと別の便秘薬を使用中の方は、注意が必要です。
のぼせや便秘傾向が強い場合は、三黄瀉心湯を少し併用(←女神散に大黄が加味される)してもいいかもしれません。
その他、一応、朮・人参・甘草などの補気健胃薬も配合されていますが、胃腸虚弱の方は、食欲不振、悪心、嘔吐などの消化器症状が起こることがありますので気をつけてください。
証(症状)が合えば男性が使用しても問題ない(はず)です。しかし、医療用エキス製剤の場合、適応症が女性向きのものしかありませんので、保険診療ではそのあたりの問題があります。。。
出典
江戸時代の浅田宗伯家方(本朝経験方)
『勿誤薬室方函』
血証、上衝、眩暈を治す。及び産前産後、通治 の剤なり。
『勿誤薬室方函口訣』
此の方は元、安栄湯と名づけて軍中七気を治する方なり。余家、婦人血症に用ひて特験あるを以て今の名とす。世に称する実母散、婦王湯、清心湯、皆一類の薬なり。
血が原因で起こる、のぼせ、めまい、および産前産後に用いる薬で、浅田宗伯によると、もともとは安栄湯という名前で、戦場の疲れ切った兵士たちの恐怖・不安・興奮など精神状態や痛みを治す薬であったが、浅田家では婦人の血症に用いて特に効果があるために、今の名称(女神散)にしたのである、とのことです。
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