甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)の解説
甘麦大棗湯は、その名前のとおり、
甘草・小麦・大棗の3種類の生薬で構成されます。
それら3つすべて、「緩和」の効果がある生薬(緩和剤)です。
脳神経の興奮(精神興奮)の甚だしい状態を緩和する漢方薬となります。
つよい悲しみや不安などで、感情の起伏が大きいときに用いられます。
構成生薬
カンゾウとコムギとナツメですので、とくに強い作用のある生薬が使われているわけではありません。
しかしこの3種を配合することで、精神の安定にはたらきます。(機序は不明ですが、漢方的な理屈は↓で補足します。)
効能効果
医療用エキス製剤
【ツムラ】夜泣き、ひきつけ。
【コタロー】小児の神経症及び婦人の神経症、不眠症。
薬局製剤
体力中等度以下で、神経が過敏で、驚きやすく、ときにあくびが出るものの次の諸症:不眠症、小児の夜泣き、ひきつけ
【補足】
強い興奮をしずめる、緊張を和らげる、といった作用をする方剤です。
精神的に不安定で、急に怒ったり、泣いたり、笑ったり、落ち込んだり、
一種の精神錯乱状態に応用されます。
とくに、ひどく悲しいことがあって涙が止まらなくなり、そして無気力になる、
ぼんやりとして、あくびを繰りかえす、など。
添付文書的には小児の夜泣きやひきつけの漢方薬ですが、
そのほか、ヒステリー発作、パニック障害、不安神経症、不眠症、閉所恐怖症、双極性障害、PMS(月経前症候群)、過食症などに広く使用されることがあります。
逆に、症状のあまり激しくない場合に、漫然と使うというようなことはあまりありません。
使い方・注意点
子供や女性に処方されることが多い漢方薬です。
味はとても甘いです。(飲みにくいくらい甘いかも)
精神的な疾患に広く利用されますし、
ヒステリー発作のような一時的な激しい神経のたかぶりに用いられます。
急迫症状には、即効的な効果を期待して使用されますので、頓服で構いません。
甘草の配合量が多いため、連用する場合は、副作用の偽アルドステロン症に注意が必要です。
小麦アレルギーに気を付ける必要があります。
原典
『金匱要略』(3世紀)
婦人の蔵躁し、喜悲傷し、哭せんと欲し、象神霊の作す所の如し、数欠伸するは甘麦大棗湯之を主る。
※ヒステリー発作のことは「蔵躁」、つまり「内臓が躁ぐ」と表現されています。臓は、五臓(全身)と捉えるのが妥当ですが、かつては子宮(ヒステリーの言葉の語源が「子宮」であるように)だろうとされていたこともあり、昔から女性(婦人)に多い症状だったようです。
[訳]⇒ヒステリー発作は、しばしば悲しんで心を傷めたり、泣きわめいたりする(感情の起伏が激しい)様子は神霊が乗り移ったかのようである。発作の前に、あくび(手足を伸ばす)を頻発するときは、甘麦大棗湯を与えるのが良い。
理屈としては、強く「気」が鬱したことで化熱し、津液が損傷し、心陰が養われず「蔵躁」の状態になると考えられていて、
これに対し
- 小麦⇒心陰を養う(養心安神)かつ涼性で心陽を抑える
- 甘草⇒緩急・補脾
- 大棗⇒燥を潤す(養血安神)※酸棗仁に似た効能
総合的に、心脾が養われ、精神が安定されるということです。
また、欠伸(あくび)がみられるという点が、甘麦大棗湯の特徴的な使用目標になっています。
ちなみに、『金匱要略』の条文で、甘麦大棗湯のひとつ前に書かれているのは、やはり気が鬱したときに生じる「咽中炙臠」「梅核気」などいわゆる「ヒステリー球」に用いられることが多い、半夏厚朴湯です。
コメント