香蘇散(こうそさん)の解説
香蘇散は
胃腸が弱い人で、気分がすぐれず、憂鬱、精神不安などがあるもの、
または、胃腸虚弱な人の軽いカゼに用いられています。
配合されている生薬の中の、とくに芳香があり気をめぐらせる作用に優れる、香附子と蘇葉から命名されています。
構成生薬
香附子・蘇葉・陳皮の3つはどれも、気をめぐらせる作用をもつ理気薬で、
かつ、すべての生薬が胃腸の動きを改善する方向にはたらきます。
香附子は、気鬱全般に対応するとともに、月経を整える効果もあります。
蘇葉は、感冒の症状に気滞を兼ねているものに適しています。
陳皮は、とくに脾の気滞(胃腸の運動)を調整しますので、胃腸虚弱の食欲不振、腹満に対応します。
※香附子と附子は、名前が似ていますが全く異なる植物です。
効能効果
メーカーで適応症が異なりますので、保険調剤の場合は気をつけてください。
【医療用エキス製剤】
[ツムラ]胃腸虚弱で神経質の人の風邪の初期
[コタロー]神経質で、頭痛がして、気分がすぐれず食欲不振を訴えるもの、あるいは頭重、めまい、耳鳴を伴うもの。感冒、頭痛、ジンマ疹、神経衰弱、婦人更年期神経症、神経性月経困難症。
※蕁麻疹は、おもに魚介類の食中毒などへの予防効果です。シソとショウガの効果です。
【薬局製剤】
体力虚弱で、神経過敏で気分がすぐれず胃腸の弱いものの次の諸症:かぜの初期、血の道症
基本的には、気滞(気の巡りがわるい)状態に用いますが、症状としては4つの使い方があります。
- 気うつなどの精神症状
- 感冒(かるいカゼ)
- ストレスによる胃の不調(食欲不振、胃のつかえ)
- 婦人科疾患(月経不順、月経痛)
補足
香附子と蘇葉で、特有のよい香りのする漢方薬です。
エキス製剤だと香りの成分の多くが揮発してしまっていますが、本来の散剤であればとくにその芳香の効果を感じることができます。
葛根湯や麻黄湯などが適さない虚弱者、かつ桂枝湯でも気分がすぐれないような場合の風邪薬としてよく使われます。
服用後にかるく汗が出ることがあります。蘇葉や生姜の発散作用によるものです。
妊娠中でも使用することができます。
その他、香蘇散を利用して、
医療用エキス製剤にはない方剤を意図した使われ方をすることがあります。
ストレスをともなう胃の不調に対して、六君子湯と併用する(香砂六君子湯の代用として)。
ストレスによる胸脇の張りや痛みに対して、四逆散と併用する(柴胡疏肝湯の代用として)。
ストレスによる突発性難聴に対して、小柴胡湯と併用する(柴蘇飲の代用として)など。
出典
『太平恵民和剤局方』(12世紀)
四時の瘟疫傷寒を治す。
⇒四季を通じて、熱や寒に傷られた病(感冒)を治す。
余談ですが、
加藤清正が朝鮮出兵で籠城していたときに、不安からノイローゼになる兵士のために、香蘇散を与えていたという逸話があります。
現代に置き換えると例えば、災害などで避難所生活をしなければならなくなったときのために、常備しておいた方がよい薬の一つかもしれません。
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