薬味(やくみ)とは生薬の味のことで、5つに分類されています。
このほかに、
味が薄いものを淡(たん)、渋みのあるものを渋(じゅう)と表すこともあります。
しかし、淡は「甘淡」というように甘と合わさったり、渋は酸とあまり区別されなかったりします。
ですので通常は味は「五味」で考えます。
五行論において五味を配置して、五臓との関連を持たせ、理論的な解説には何かと「五味」の方が都合が良いようです。
酸味をもつ生薬の特徴
例えば、酸味。(渋味も酸味に含めます。)
収斂作用
その生薬にもし収斂作用があった場合、その味は酸味となります。
収斂とは、気や陰液が体から余計に漏れ出ていかないようにする働きです。
梅干しやレモンを口に入れてスッパイと感じた時の口の形が、収斂されてすぼまっていることでしょう。
全てがそうということではありませんが、
収斂作用を使って、汗をとめる、下痢をとめる、血をとめる、帯下(おりもの)をとめる、といった方剤があれば、 酸味のある生薬が使われていることが多くなります。
実際に酸味のある生薬で、五味子(ゴミシ)には、収斂作用があります。
五味子の名前の由来は、5つの味をすべて備えているということ(らしい)ですが、その中で酸味が最も強いです。
五味子のその収斂の働きは、
例えば止汗作用を期待しての清暑益気湯(せいしょえっきとう)や 咳や鼻水を止める小青竜湯(しょうせいりゅうとう)などに応用されています。
緊張の緩和
酸味のもう一つの特徴は、気の消耗を防ぎ、緊張を和らげる作用です
酸棗仁(サンソウニン)は、中枢神経を抑制し、鎮静作用・催眠作用をもちます。
酸棗仁湯(さんそうにんとう)や、帰脾湯(きひとう)に応用されます。
(やはり酸棗仁にも止汗作用があります。)
日常でも、会議や発表の前、スポーツなどの試合の前、緊張を防ぐためには何かスッパイものを食べておくといいかもしれません。
酸味と甘味を合わせる
緊張を和らげるという作用は、「緩」と表現されることもあります。
緩和作用といえば「甘味」の特徴でもあります。
その甘味に酸味を合わせると、緩和の働きが強まります。
酸味の代表的な生薬として芍薬(しゃくやく)、
甘味の代表的な生薬として甘草(かんぞう)、
その二つを合わせたら芍薬甘草湯(しゃかうやくかんぞうとう)、
こむら返りの薬として有名なように 急に起こる筋肉の激しいけいれんを「緩和」します。
「桂枝湯」や「葛根湯」などでは、芍薬と甘草が含まれているので、陰液が過剰に損なわれないように、発汗作用が「緩和」されています。
酸味と甘味を使って陰(潤い)を保つ方法を「酸甘化陰」といいます。
解熱のために強く発汗させたい麻黄湯(まおうとう)には、収斂して止汗する芍薬は入れません。
辛味をもつ生薬の特徴
例えば、辛味。
辛い味の特性は、「散」と「行」という言葉で表現されます。
散
「散」は、散らす。発散する。散寒など。
薄荷(ハッカ)や荊芥(ケイガイ)などは体表の邪を散らして除く働きをします。
感冒に使う漢方薬にも多用されますが、例えば発汗作用を持つものが相当します。
辛味の代表的な生姜(ショウキョウ)は、散寒解表の効能があります。
寒気を伴うカゼの初期に使うと、発汗を助けます。
行
「行」は、気や血のめぐりを良くする働きを指します。
四物湯(しもつとう)に含まれる辛味の川芎(センキュウ)の効能は活血と行気です。
その他、行気の薬として陳皮(チンピ)、木香(モッコウ)、活血の薬として紅花(コウカ)なども辛味になります。
辛温
「散」「行」の働きの延長として、
陽気の働きが悪いために、津液の偏在が起こり、 冷えとともに、あるところで浮腫み、あるところで乾燥している、というような状態を改善することも辛味の特性に含めることがあります。
肉桂や附子などの辛温の薬の働きです。
もし、「冷え」と「臓腑の機能的な低下」がある場合、
辛味に、甘味の生薬を合わせ、 陽気の働きを促進するという方法がとられます。
桂枝湯(けいしとう)にみられるような、辛味の「桂枝」と甘味の「甘草」の配合を「辛甘化陽」といい、
相乗効果を期待している代表的な組み合わせです。
辛味と言っても、すべてがトウガラシみたいにピリッとする味ということではありません。
あくまでも特性を分類するうえでの一般論のお話です。
甘味をもつ生薬の特徴
例えば、甘味。
甘い味の特性は、「緩」・「和」・「補」という言葉で表現されます。
緩
「緩」は、緩和の緩
急激に起こった激しい症状(痛み・けいれん等)を和らげる(上述した芍薬甘草湯の甘草)
それと、
他の生薬の毒性を和らげる、という効能です。
大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)というのは、大黄(ダイオウ)の瀉下作用を残しながら、甘草(カンゾウ)で大黄による副作用を予防しています。
それとか、
生姜(ショウキョウ)とよくペアで配合される甘味の大棗(タイソウ)は、 生姜の刺激性を緩和しています。
和
「和」は、調和の和
処方の構成の中に甘味の生薬を入れ、生薬同士の相性を良くします。
「和中」の効能のある甘味の生薬は、消化器を保護します。
腹痛に用いる膠飴(コウイ)がそうです。
甘味の代表的な生薬である「甘草」は、緩和・調和・和中などに働くため、非常に多くの処方に組み込まれています。
補
「補」は、補う効果です。
補気の人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、山薬(サンヤク)
補陰の麦門冬(バクモンドウ)
補血の熟地黄(ジュクジオウ)などは、甘味の代表的な生薬です。
※補う作用は、不足しているものを補うから効果があるのであって、補益性があるからといっても、甘い食べ物をたくさん食べた方が良いということではありません。
補う効果によって、気の働きや、臓腑の機能を促進するような効果を「発」と表現されることもあります。
甘味としての話でいくと、ハチミツが便秘に効果があるというのは、甘みの「養陰」の働きによるもので、「甘」による潤いの効果だと説明できます。(実際はオリゴ糖が腸内の善玉菌を増やしているからかもしれませんが)
苦味をもつ生薬の特徴
例えば、苦味。
良薬は口に苦しと言いまして、漢方薬にも苦味の作用は欠かせません。
苦い味の特性は、「降」・「瀉」・「燥」・「堅」という言葉で表現されます。
「降」と「瀉」は、まとめて「泄」ということもあります。
いずれにしてもベクトルの方向は下(↓)向きに働いています。
「泄」を、降泄・通泄・清泄と分けてみることもできます。
「降泄」は、気を下へ向かわせる
「通泄」は、余分なものを瀉する(除く)
「清泄」は、熱を鎮める、冷やすという効果です。
杏仁(キョウニン)は気を降ろして咳を止めます。
大黄(ダイオウ)は、熱を瀉しながら、排便を促進します。
燥
「燥」は、乾燥させる。
湿邪を除くという効果を指します
蒼朮(ソウジュツ)は水毒を除く要薬と言われています。
黄連(オウレン)は湿を乾燥させるし、熱も鎮めます。
堅
「堅」は、堅(かた)くする。
イメージしにくいですが、引き締める、引き締めて鎮静するような効果です。
「堅くする」作用の反対の言葉を「萎える」(なえる)で考えるといいかもしれません。
成長や生殖の機能をつかさどる臓腑としての「腎」が、萎えることで、コントロールを失った状態で、
足腰が弱い(長時間立っていられない)、ED(勃起不全)、早漏、遺精(夢精)、ほてって寝汗が多い、など
腎陰虚による虚熱の症状です。
腎陰虚証の程度が重いときに用いる「知柏地黄丸」は、六味丸に知母(チモ)と黄柏(オウバク)を加えたものです。
知母・黄柏はともに体内の熱を冷ますと同時に、一緒に配合することで腎陰を補助する作用を備えます。(虚熱を冷まします)
黄柏の苦みは、寒性なので、陰を傷めずに湿や熱を除くことができます。これが、陰を堅めるということです。
「清熱」と「燥」なので、つまり、熱を冷やして乾燥させれば、引き締まって堅くなります。
これにより陰精がむだに漏れないようになります。
もうひとつ、苦味健胃薬というのもあります。
少量の適度な苦みというのは、唾液が分泌されたり、胃腸の働きが促進されたりして、食欲が増します。
ビールやゴーヤ、山菜など若いころ嫌いだった苦い味が、年とともに好むようになってきたら、胃腸が弱り始めているのかもしれません。
しかし、胃が冷えやすい人、胃が冷えて下痢しやすい人は、上記の「瀉」などの特性を踏まえると、苦みの多食は控えなければいけません。
鹹味をもつ生薬の特徴
残りの鹹味(かんみ)
しおからい味の特性は、「軟堅」・「散結」・「潤下」という言葉で表現されます。
・堅いものを軟らかくする作用
・腫瘍のような腫れ物、しこりをほぐす作用
・浸透圧によって潤して下す作用
というようなものです。
野菜を塩揉みするとやわらかくなる、というイメージ。
芒硝(ボウショウ)は塩類下剤とも言われるように、便を軟らかくするので、便秘の方剤によく配合されますし(潤下)、お腹が硬く張っているときにも用いられます(軟堅)。
牡蛎(ボレイ)は頸部リンパ節腫や、しこり等に対しての薬効をもつといわれています(散結)。
淡味について
もう一つ、淡味についても補足しておきますと、
茯苓や滑石、薏苡仁などが代表的な淡味の生薬です。
主に利水作用を持つものが多くなっています。
しかし淡味は、無味ではないものの、著しいはっきりした味とは言えないためか、五味には含まれていません。
五味についてのまとめと注意点
以上のように、五味からは、その生薬の薬効をおおまかに推測することができます。
辛 → (めぐらせる)発汗・理気の効能をもつ
甘 → (緩和する)緩和・滋補(補気・補血)の効能をもつ
酸 → (収斂させる)収斂・止血・止瀉の効能をもつ
苦 → (引き締める)清熱・鎮静・瀉下・燥湿の効能をもつ
鹹 → (潤す)軟堅・瀉下の効能をもつ
(痰 → 利水のものが多い)
という感じです。
ここで注意点がありまして・・・
まずひとつ、
本来、薬味というものは味覚に基づくはずですが、
効能との関連性を持たせたいがために、
逆に効能に基づいて、薬味が決められた生薬もあります。
効能が先で、つじつまを合わせるための薬味です。
これには実際の味とは一致しない場合もあるということです。
効能から薬味が決定している代表的なものとして、葛根の辛味、石膏の甘味などがあります。
また、もう1点、東洋医学の基礎的な教科書などでは、
五行において、五味と五臓に関係を持たせて書かれている場合があります。
酸→肝
苦→心
甘→脾
辛→肺
鹹→腎
これは親和性ということで、まずその臓に入るといわれる一般的な法則でありますが
決して、その臓器だけに作用する、ということではありません。
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