温経湯(うんけいとう)の解説
温経湯は、月経と関わりのある経絡を温め、
気と血をめぐらせるはたらきをします。
冷え、もしくは唇や手足が乾燥しやすい人の
月経や皮膚のトラブルに使われる漢方薬です。
よく月経不順、不正出血、不妊症などに用いられますが
手のほてりや湿疹、皮膚炎にも応用されています。
構成生薬について
12種類の生薬が配合されます。
各生薬のはたらき
構成している生薬のはたらきをおおまかに分類すると次のようになります。
○温めて気をめぐらせる生薬
呉茱萸・桂枝・生姜
○血をおぎない、血をめぐらせる生薬
当帰・芍薬・川芎・牡丹皮
○乾きをうるおす生薬
人参・甘草・阿膠・麦門冬
○胃腸のはたらきを高め、気血の産生をたすける生薬
半夏・人参・甘草・生姜
○痛みをとめる生薬
芍薬・甘草
このような生薬で構成されています。
効果のポイント
体をあたためる生薬がたくさん入っています。
基本的には、冷えのある人向きの薬です。(下腹部が冷えて痛むなど)
一方で、血が十分にめぐっていないことで、皮膚が乾燥しやすく、
手荒れ・肌荒れ(冬はあかぎれ)、
または手足のほてり、手のひらに不快な熱感があったり、
唇や口がよく乾燥する、などが起こりやすく、
これに滋潤効果のある生薬が対応しています。
それに加えて、月経トラブルの常用薬である当帰や芍薬などの配合により、
月経不順(周期の延長または短縮、無月経)、月経過多、不妊などのときにも適しています。
あたためる薬とともに牡丹皮を配合することで、冷えによって生じる瘀血へのフォローもあります。
止血作用のある阿膠も入っているので不正出血でもある程度対応します。
効能効果
温経湯の効能は、大きく分けると、
- 婦人科系の症状
- 皮膚の症状
の2通りの応用の仕方があります。
症状が月経周期に関連して良くなったり悪くなったりしやすい、というのも特徴です。
【ツムラ】
手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ、更年期障害、不眠、神経症、湿疹、足腰の冷え、しもやけ
【コタロー】
冷え症で手掌がほてり、口唇が乾燥しやすいつぎの諸症に用いる。
指掌角皮症、更年期神経症、月経不順、月経過多、月経痛、頭痛、腰痛、帯下。
【薬局製剤】
体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・皮膚炎)
副作用や注意点
温経湯は、冷えがあり、(または不正出血があって)月経不順、月経痛、あるいは更年期の症状や不妊症に使用される漢方薬となっています。
ただし、
それにくわえて、血や津液(あわせて陰血)による滋潤作用が行き届いておらず、
手足のほてり・唇の乾燥がある、というのが特徴になります。
ほかによく似た適応をもつ漢方薬に当帰芍薬散がありますが、
当帰芍薬散はむくみやすい人向きの薬です。
乾燥傾向がある人向きの温経湯と、水を溜めやすい傾向がある人向きの当帰芍薬散とは、きちんと使い分ける必要があります。
飲み方に関しては、体を冷やさないように、温経湯も温かくして服用するのが基本です(後味は少し苦いですが)。
普段からもなるべく冷飲食には注意して、とくに下腹部や下半身を冷やさないようにこころがけましょう。
胃腸の弱い人は、食欲不振、吐き気、下痢など起こすことがあります。心配なときは少量から試してください。
長期間服用されるときは、甘草の副作用に注意してください。(脱力感、筋力の低下、四肢のけいれん、まひ等が起こったときは服用を中止して専門家にご相談ください。)
温経について
温経湯という名前について補足。
温経湯の「温経」とは、経絡を温める、ということですが、
経絡とは、気や血がめぐっている通路のことで、東洋医学独特の概念です。
からだの各部位(臓腑、組織、筋肉、皮膚など)はすべてこの経絡というネットワークでつながっており、そこに気と血が十分めぐっていることで正常に機能します。
経絡に問題が生じ、気や血がめぐらなくなると、その経絡のつながっている部位に影響がでる、と考えられています。
特に、婦人科の疾患に関わるものとしては、
子宮とつながっている経絡に、衝脈と任脈とがあります。あわせて衝任といいます。
月経のトラブルの多くは、この衝任の問題ととらえることができます。
温経湯というのは、この月経と関わりのある衝任という経絡を温める、
衝任のはたらきを調整することによって、さまざまな月経のトラブル(月経不順、月経痛、不正性器出血)や不妊症などを改善することができる、
そういう意味が込められた名前です。
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