芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)の解説
芍薬甘草附子湯は、芍薬・甘草・附子の3つの生薬で構成される漢方薬で、
各種の痛みで、冷え症、または冷えを伴ったものに用いられます。
構成生薬
芍薬甘草湯に附子を加えたもの。
ただ、芍薬甘草湯に比べると、芍薬・甘草ともにその分量は少しだけ減らされています。(原典では3/4量)
附子には温める作用、または痛みを止める作用があります。
基本的には芍薬甘草湯と同じようにどこかが「痛い時」に使用することができますが、
とくに冷えがつよい場合に適応となります。
医療機関によっては、芍薬甘草附子湯の代わりに、芍薬甘草湯エキス剤に附子を加えて処方されることがあるかもしれません。
効能効果
【医療用エキス製剤】(三和)
冷症で関節や筋肉が痛み、麻痺感があって四肢の屈伸が困難なものの次の諸症:
慢性神経痛、慢性関節炎、関節リウマチ、筋肉リウマチ、五十肩、肩こり
【市販薬】
体力中等度以下で、冷えを伴うものの次の諸症:
こむらがえり、筋肉のけいれん、胃痛、腹痛、腰痛、神経痛
芍薬甘草附子湯の場合は「冷えを伴うもの」であるということと、
芍薬甘草湯が、こむらがえりのような、発作的な、急迫的な症状に使うのに比べ、
芍薬甘草附子湯は、それよりも若干ですが慢性的な症状にも使われます。
※注意点
市販の「芍薬甘草湯」に添付されている説明書の”使用上の注意”
―してはいけないこと―の項目には、
症状があるときのみの服用にとどめ、連用しないでください。
といった内容が書かれているはずです。
芍薬甘草附子湯においても、やはり長期の連用には注意が必要です。
ポイント
芍薬甘草附子湯は、筋肉の痙攣(けいれん)または関節の痛みで、冷えがあるときに用いられます。
芍薬甘草湯に比べると甘草の量が減っていますが、それでも他の漢方薬に比べると多めに配合されます。
頓服として使用する場合はあまり問題になりませんが、他の漢方薬と併用するときは、甘草による偽アルドステロン症や低カリウム血症などの副作用に注意が必要です。
附子が配合されていますので、冷え症の人向きであって、のぼせが強い・赤ら顔・体力の充実している人には向いていません。
また、附子の過量服用による副作用として、動悸、のぼせ、ほてり、口唇・舌のしびれ等に注意が必要です。心疾患の既往のある方は、あらかじめ医師などにご相談ください。
長期の連用には適していません。
単独での使用ではなくて、腰痛などに対して他の漢方薬(例えば五積散とか八味地黄丸)を使用していて、その効果を高めるために、芍薬甘草附子湯を少量加味して使うといったことはあるかもしれません。
しかし、冷えと関連する痛みに用いる漢方薬は他にも色々ありますので、より適当なものがあれば検討されてください。
冷えると悪化する関節痛⇒桂枝加朮附湯
冷えにともなう腰痛⇒苓姜朮甘湯
冷えにともなう胃痛⇒安中散
冷えにともなう腹痛⇒大建中湯など
出典
『傷寒論』(3世紀)
発汗すれど病解せず、反て悪寒する者は虚するが故なり。芍薬甘草附子湯之を主る。(太陽病)
太陽病(悪寒発熱)のときに発汗させて治療するのは正しいはずですが、かえって悪寒がひどくなる場合は、発汗のしすぎによって(陰陽ともに)虚してしまっているからです。このときは芍薬甘草附子湯を使用します。
芍薬・甘草で陰血を補い、附子で陽気を補います。
二つあとの条文にはこう続きます。
発汗後、悪寒する者は虚するが故なり。悪寒せず但だ熱する者は実なり。当に胃気を和すべし、調胃承気湯を与う。
調胃承気湯は、胃の熱を排泄させて、胃の調子を整える方剤です。
もともと陽虚の人をつよく発汗させてしまい、さらに悪寒(震え)がひどくなった場合は芍薬甘草附子湯ですが、
逆に、邪気が旺盛(実)な場合は発汗させても熱が下がらないことになります。
邪気が裏に侵入(陽明病に移行)するところですが、ただ熱だけで軽症であれば、まず調胃承気湯を与えて胃気を調整してみます。
ということでありましょうが、実際のカゼのときにこのような機転のきいた判断は非常に難しいものです。
現在では原典のような感冒のときではなく、芍薬甘草附子湯も芍薬甘草湯と同様、(冷えをともなって)どこかが痛いときに用いられることの方が一般的です。
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