2-(3) 清熱涼血薬(せいねつりょうけつやく)
清熱涼血薬は、一般には熱が営分や血分にある証に用いる薬を指します。
熱邪の進行過程を分析するときに用いる「衛気営血弁証」で分類した場合、
衛分の熱は表証ですので→例えば辛涼解表薬を用います。
気分証になると熱邪が裏に入っていますので→例えば清熱瀉火薬が使われます。
そして営分証となれば、例えば清熱涼血薬の適応となります。
営分証では、熱邪によって脱水も生じてきている段階ですので、
症状としては、高熱(夜間に高くなる)、イライラ、心煩、不安感、不眠、口乾、舌が深紅などがみられます。
血分証であれば、さらに陰液が消耗し、上の症状に出血傾向も伴います。
営と血は実際、区別が難しく(きちんと定義しようとすると長くなるので)営と血をまとめて営血と表現することも多いです。
いずれにしても清熱涼血薬を用いる熱というのは、深さで言えばかなり深いところまで熱が侵入していることになります。
血分の熱は、血行を乱して出血を起こすこともありますが、
出血とまでいかなくても、陰液は消耗してします。血がドロドロになって、瘀血の原因にもなります。
ということで清熱涼血薬というのは、
血分の熱を抑える、あるいはそれとともに津液の消耗を抑え滋陰したり、あるいは瘀血の発生を抑えたりする作用を兼ね備えた薬が分類されています。
生地黄(しょうじおう)
ゴマノハグサ科(APG分類Ⅲではジオウ科・APG分類Ⅳではハマウツボ科)カイケイジオウ、アカヤジオウの肥大根を乾燥させたもの。乾地黄ともいう。
※蒸して乾燥する工程を繰り返すという修治を施したものを「熟地黄」(→補血薬に分類)として中薬学的は区別します。日本漢方ではあまり区別されていませんが、ただ「地黄」とだけ書かかれていればおそらく「乾地黄」であることの方が(特にエキス剤では)多いと思います。
【帰経】心 肝 腎
【効能】清熱涼血 養陰生津
苦寒の性質で血熱を冷ますと同時に、甘寒の性質で陰液を養うことができるのが特徴で、滋陰涼血の代表的な生薬です。
帰経を合わせれば、よく心肝の血を涼し、心腎の陰を養うものと考えられます。
- 熱邪が営血に入って起こる、身体の熱感、夜熱早涼(夜になると発熱し、朝になると熱が下がる)、心煩、口渇、津液の消耗による便秘に用いることができます。例⇒三物黄芩湯
- 熱病が長引いて微熱が続くときや、慢性的な陰虚による微熱、寝汗にも用いることができます。例⇒知柏地黄丸
- 熱病または呼吸器疾患で津液の消耗があって、喉や唇の乾き、咳込みなどのときには麦門冬などと併用されます。例⇒滋陰降火湯
- また血熱による出血(吐血、鼻血、血尿、不正出血、皮下出血など)に使われることもあるかもしれません。
注意点:胃腸のはたらきを弱めて胃もたれを起こすことがあります。脾虚や陽虚で、腹部膨満、下痢などあれば使用を控えた方が良いでしょう。
関連記事:生地黄、乾地黄、熟地黄の違い
牡丹皮(ぼたんぴ)
ボタン科ボタンの根皮
【帰経】心 肝 腎
【効能】清熱涼血 活血散瘀(清肝火)
①清熱涼血
清熱の効能に関しては、生地黄と同様です。
慢性病のための虚熱で(もしくは熱病が長引いたとき)の夜間の微熱やほてりに、生地黄や知母などと配合されます。例⇒知柏地黄丸
②活血散瘀
血熱による瘀滞を散らし通じさせることで血行を改善するはたらきです。
瘀血による月経不順、月経痛などに用いられます。打撲などの外傷による痛みにも応用されます。例⇒桂枝茯苓丸、折衝飲
また、清熱涼血と活血散瘀の効能を総合して、(抗生剤や手術による治療が無かった時代)虫垂炎の治療に活用されていたこともあります。例⇒大黄牡丹皮湯、腸癰湯
③清肝火
肝火(肝鬱化火)が起こっているとき、要するにストレスが強くて熱感、頭痛、イライラ、紅潮などの症状があるとき、逍遙散に清熱作用を強めるための山梔子と牡丹皮を加え、加味逍遙散として用いられます。
赤芍(せきしゃく)
ボタン科シャクヤクの(外皮を付けたままの)根
※中薬学的には、外皮を付けたままの根を「赤芍」、外皮を去ったものを「白芍」として区別します。花の色とは関係ありません。白芍が不足を補う(⇒補血薬に分類される)のに対して、赤芍は過剰を散じることに優れています。日本漢方では区別されずどちらも「芍薬」です。
【帰経】肝
【効能】清熱涼血 散瘀止痛
同じボタン科ボタン属(Paeonia)の ボタンの根の皮である牡丹皮と、当然のように効能がよく似ています。
お互いに効果を高め合うことができるため、よく一緒に配合されます。ただ優劣を付けるとすると…
清熱涼血に関しては、牡丹皮>赤芍
散瘀止痛に関しては、牡丹皮<赤芍
ということで、牡丹皮は陰虚の発熱にも用いられているのに対して、赤芍薬は主に痛みのある血瘀に用いられることが多いようです。血の巡りが悪いために起こる月経痛、打撲による腫痛など。
例⇒桂枝茯苓丸、桃紅四物湯、血府逐瘀湯、折衝飲…
玄参(げんじん)
ゴマノハグサ科ゴマノハグサ属植物 Scrophularia ningpoensisの根
「玄」は色の黒いことを表す字です。
地黄に似て黒い色をした生薬で、滋陰薬として分類されることもあります。
【帰経】肺 胃 腎
【効能】清熱涼血(除煩)解毒 養陰
- 清熱と滋陰の作用があり、生地黄とともに、脱水傾向にあって口渇や煩躁、不眠などに用いられます。
例⇒加味温胆湯 - また、清熱解毒のはたらきで、炎症性の腫れや痛みに用いられます。
例⇒神仙太乙膏
犀角(さいかく)
サイ(奇蹄目サイ科)の角
【帰経】心 肝 胃
【効能】涼血止血 安神定驚 瀉火解毒
かつては、清熱涼血の代表的な薬として多用されていたようですが、
現在はご存知の通りワシントン条約で国際取引が禁止されています。
今後使用されることもないと思いますので解説も割愛します。
どうしても犀角を使わなければいけないのに入手が困難なときは(そんな状況があるとも思いませんが)水牛の角で代用する方法があるとのことですが、その効果のほどは不明です。
ちなみに『ざんねんないきもの事典』によると「サイの角は、ただのイボ」だそうです。
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