啓脾湯(けいひとう)の解説
啓脾湯は、主として慢性的に下痢の傾向がある人に用いられている漢方薬です。
構成生薬
人参・白朮・茯苓・甘草の4つで四君子湯。
四君子湯は、弱っている脾(胃腸)を整えて気を補うための基本方剤です。
その四君子湯をベースに、山薬・陳皮・山査子・蓮肉・沢瀉を加えた構成になっています。
- 山薬⇒さらに脾を補う
- 陳皮⇒理気によって食欲不振を改善
- 山査子⇒消化を助ける
- 蓮肉⇒脾を補うことで下痢を改善
- 沢瀉⇒利尿により余分な水分を出し下痢を抑える
というように、すべてで四君子湯の作用を強化しています。
胃腸のはたらきが弱く、消化不良で、慢性的に下痢をしている状態を改善しようという漢方薬です。
効能効果
【医療用エキス製剤】(ツムラ他)
やせて、顔色が悪く、食欲がなく、下痢の傾向があるものの次の諸症:
胃腸虚弱、慢性胃腸炎、消化不良、下痢
【薬局製剤】
体力虚弱で、痩せて顔色が悪く、食欲がなく、下痢の傾向があるものの次の諸症:
胃腸虚弱、慢性胃腸炎、消化不良、下痢
ポイント
啓脾湯は、胃腸虚弱者でよく下痢をしてしまう人のための漢方薬です。
- お腹が弱いことを自覚していて普段から気を付けている
- なのに、少し食べ過ぎたりするとすぐ下痢をしてしまう
- 下痢が慢性化してしまって
- そのせいで栄養状態が悪く、やせている、太れない、何をするにも力がでない
- 他の下痢止めもなかなか効かないか合わない
小児から高齢者まで幅広く利用が可能です。
過敏性腸症候群の下痢などにも使われることがあります。
胃腸系の漢方薬の中ではめずらしく生姜が配合されていません。ショウガの辛みが体質的に合わない人でも服用しやすくなっています。
市販薬に啓脾湯のエキス製剤はありません。
啓脾湯とだいたい同じ効能を有するものとして、参苓白朮散がOTC医薬品としてありますので、そちらが代用品となります。
お腹の冷えがあって下痢するときは、人参湯や真武湯の方が適します。
出典
『万病回春』(16世紀)
啓脾丸、 食を消し、瀉を止め、吐を止め、疳を消し、黄を消し、脹を消し、腹痛を定め、脾を益し、胃を健やかにす。
※疳:消化不良による衰弱、黄:消化不良による黄疸、脹:腹部の脹満
明代に、小児の泄瀉(下痢)の治療薬として書かれています。
原典では「啓脾丸」という丸薬でして、
それが日本で江戸時代に「啓脾湯」という湯薬として利用され始めたようです。
方剤の名前の「脾を啓く」は、閉じている脾の機能を回復させて、食べ物を受け入れられるようにするという意味が込められています。
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