開竅薬(かいきょうやく)~麝香・竜脳・蘇合香・石菖蒲~

開竅薬(かいきょうやく)

16.開竅薬

開竅薬とは

開竅薬(かいきょうやく)は、独特の強い芳香のある生薬で、意識を覚醒させる目的で使用する薬のことです。

東洋医学での「心」は、神志(精神意識)を主っていて、
何らかの邪気によって心の竅(あな)が閉ざされたときに、意識障害を起こすと考えます。

つまり、この竅(あな)を開き、意識を回復させる効能がある生薬ということで、開竅薬と分類します。

ところで、意識障害に陥っている人に対してどのように漢方薬を服用させるのでしょうか。
一般的には、開竅薬として使用する場合、
調合して煎じて…ということはせず、あらかじめ飲ませやすい形に準備しておかなければいけません。
煎じると時間がかかるだけでなく、芳香性の成分が揮発して効力が低下するおそれもあります。
固形の剤形(~丸、~丹)あるいは散剤にして使用します。
それを無理やり口に押し込んで流しこむ・・・?

開竅薬を用いて意識を覚醒させる方法を「開竅法」といいますが、
今は救急措置の方法が限られていた時代とは違って
確実に効果のある注射や点滴(または外用薬)として開発されたものがありますので、
実際は以下のような生薬をそのまま(開竅法に)使用することは稀で、
効能の研究が進んでどちらかというと開竅薬というよりは、活血薬、気つけ薬、心臓病の治療薬など別の役割を担っていると思われます。
(日本の医療用漢方エキス製剤には配合されていません)

開竅薬の適応について

実際に意識障害で使用することは無いとしても、一応、開竅薬の適応についての注意点を書いておきます。3つです。

  1. 虚実と寒熱を間違えないこと。
  2. 救急措置の役割が強く、基本的に長期間服用するものではないです。意識が回復したら中止し、根本的な原因を治療しなければいけません。
  3. 妊婦には禁忌または慎重を要します。

虚実と寒熱について、まとめます。

意識障害の虚実と寒熱について

意識障害(神志昏迷)には虚証と実証があります。
虚証は「脱証」です。吐いたり下したり大量の汗が出たりして、気が虚してしまった場合です。この時、手は開いたまま、口もダラっと開いた状態。四肢は冷たくなり、冷や汗が出て、血圧下がり、脈が弱くなる。
この状況で用いるのは、人参のような補益薬です。開竅薬は用いるべきではありません。
開竅薬が用いられるのは、実証のときで「閉証」といいます。口がしっかり閉じて、両手もにぎりしめている状況です。

次に、閉証は寒閉と熱閉に分けられます。
寒閉では、顔色が青く、身体が冷たい、舌苔が白(口を閉じてるので確認できないと思いますが)、脈が遅などの特徴があります。このとき温裏散寒薬などと併用して「温開」させます。
一方の熱閉では、顔色が赤く、身体が熱い、舌苔が黄(口を閉じてるので確認できないと思いますが)、脈が数(さく)などの特徴があります。このときは清熱解毒薬などと併用して「涼開」させます。

麝香(じゃこう)

シカ科ジャコウジカの雄の袋状腺嚢中の分泌物。
特有の強い臭いの成分はムスコンという化合物で、原物は獣臭と尿臭のする不快な臭いのもの(らしい)です。
香水の材料で有名な「ムスク」として使用されるものは、希釈して極々少量だけ使用することで、ほどよい香りになっています(もしくは人工的な合成ムスク)。
ワシントン条約ですでに取引は規制されていますので、天然のものは稀少で非常に高価なものになっています。

【性味】辛 温
【帰経】心 脾
【効能】開竅醒神 活血散結 止痛 催産

竜脳(りゅうのう)

フタバガキ科リュウノウジュの樹脂を加工したもの、または人工的に(d-ボルネオールとして)結晶化させたもの。
中薬では冰片(ひょうへん)ともいいます。

【性味】辛 苦 微寒
【帰経】心 脾 肺
【効能】開竅醒神 清熱止痛

蘇合香(そごうこう)

マンサク科(APG分類ではフウ科)レヴァントスティラックス(Liquidambar orientalis)の樹脂

【性味】辛 甘 温
【帰経】心 脾
【効能】開竅辟穢 止痛

石菖蒲(せきしょうぶ)

ショウブ科(旧サトイモ科)セキショウ(Acorus gramineus)の根茎

【性味】辛 温
【帰経】心 胃
【効能】開竅寧神 化湿和胃

 

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