桂枝湯の芍薬を増量しただけの桂枝加芍薬湯がなぜお腹の薬になるのか
発熱などのカゼに用いる桂枝湯、その桂枝湯の芍薬の量が違うだけの桂枝加芍薬湯はお腹の症状に用います。
なぜ芍薬の量の違いだけで、効能効果が変わってくるのでしょうか?
生薬の構成から考えられるポイントを3つ挙げて、解説します。
桂枝湯と桂枝加芍薬湯の違い
「桂枝湯」に芍薬を加えたのが「桂枝加芍薬湯」、ではなくて、
元々の桂枝湯にも芍薬は入っていますので、正しくは、「桂枝湯」の芍薬の量を増やしたものが、「桂枝加芍薬湯」です。
「桂枝湯」は、悪寒や発熱、頭痛のあるカゼの初期に用いられる漢方薬で、体を温める作用や、かるい発汗作用があります。
「桂枝湯」が主にカゼの症状のときに使うのに対して、
芍薬の量を増やしただけの「桂枝加芍薬湯」は主にお腹の症状に使うことになります。
では、芍薬の分量を変えるだけでなぜこのような違いが生じるのでしょうか。
各生薬の働きからみる3つのポイント
- 桂枝
- 芍薬
- 大棗
- 甘草
- 生姜
桂枝・大棗・生姜
①芍薬の量が増えれば、温める生薬による発汗作用が弱まる
まず、桂枝・大棗・生姜の3つは体を温める作用があります。
大棗・生姜は主に胃腸を温めます。
桂枝と生姜で発汗作用を示しますが、
「桂枝湯」における芍薬は、逆に発汗のし過ぎを抑える(予防する)働きをしています。
よって「桂枝湯」の発汗作用は、芍薬の量を増やすことでさらに抑制されてきます。
桂枝と芍薬の性質の違い
②桂枝湯は発散性の生薬↔芍薬は収斂性の生薬
結論をここで先に言うと、芍薬の量が多ければ、方剤の作用を、体表部への作用から消化器への作用に向かわせるように働くことになります。
桂枝の性質は「発散性」なので、桂枝が強ければ体の外側、上側に作用しやすいです。
逆に芍薬の性質は「収斂性」なので、芍薬が強ければ体の内側、お腹に作用しやすいです。
「桂枝湯」では、桂枝と芍薬の分量は同じですが、
そのときの力の関係は、桂枝>芍薬となっており、「桂枝湯」は体表を温める効果を持ちます。
芍薬の量を倍に増やせば、力関係が桂枝<芍薬となり、体表ではなくて、お腹を温める効果を持つようになります。
甘草・大棗・生姜は、すべて胃の働きを助ける作用を持ち、
「桂枝加芍薬湯」の構成すべてが、胃腸とともに体を温めて、消化器の働きを整える作用に変わります。
お腹が冷えて悪化するときに適した構成になっていきます。
(もし、体表の症状、例えばのぼせが強い等のときは「桂枝湯」の桂枝を増量すれば良いということであり、そうした場合は「桂枝加桂湯」(けいしかけいとう)という方剤名になります。)
芍薬と甘草
③芍薬甘草湯が入っている
次に芍薬と甘草とで、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という処方になりますが、
これだけで、こむら返りや生理痛など、筋肉の緊張やけいれんによる痛みを緩和します。
桂枝も、冷えから起こる痛みに効果があり、
お腹でみた場合、桂枝・芍薬・甘草で、下痢やしぶり腹による腹痛が改善されます。
また、胃腸の働きが低下することで便がスッキリ出ないなど、便秘の症状にも対応します。(便秘症状の強いときは大黄を加えて「桂枝加芍薬大黄湯」として使います。)
まとめ
以上のことを踏まえると、カゼの薬であった「桂枝湯」が、「桂枝加芍薬湯」になるとお腹の薬として見えてきましたでしょうか。
お腹の薬としてしか見えなくなってくるかもしれません。
漢方理論的には、桂枝が「陽」、芍薬が「陰」をバランスよく補っていることになります。
芍薬は、肝の気血の巡りに対して作用するということもあるため、「桂枝加芍薬湯」はストレスや緊張(代表的なものとして過敏性腸症候群)による腹痛・下痢にも利用されます。
そして、子供に使われる有名な漢方薬である「小建中湯」(しょうけんちゅうとう)も、この「桂枝加芍薬湯」から発展したものと考えられます。
桂枝加芍薬湯も小建中湯も、どちらも元が「桂枝湯」なので、
虚弱な人のカゼには強く発汗させないように「桂枝湯」を使うとされていますが、
「桂枝湯」を使うよりもさらに虚弱な人、または小児の場合で、
発汗作用をさらに抑えたいならば、カゼのときでも「桂枝加芍薬湯」や「小建中湯」でも良いことがあります。
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