【甘草瀉心湯】~半夏瀉心湯の甘草を増量したもの~

甘草瀉心湯

甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)の解説

甘草瀉心湯は、半夏瀉心湯はんげしゃしんとうの甘草を増量したものです。

構成生薬

構成生薬は半夏瀉心湯はんげしゃしんとうと同じで、甘草が増量されています。

効能効果

体力中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときにイライラ感、下痢、はきけ、腹が鳴るもの
の次の諸症:胃腸炎、口内炎、口臭、不眠症、神経症、下痢

ポイント

半夏瀉心湯と同じように、心下部(みぞおち)のつかえがあって、下痢やお腹がゴロゴロなるようなとき(腹中雷鳴)に用いられます。

鎮痙作用のある甘草を増やしているので、より下痢や腹鳴がつよいときに適します。

また、甘草の急迫症状を緩和させる効果により、つよい精神症状があり、気持ちが落ち着かない等の場合に用いられることがあります。

その場合、半夏瀉心湯+甘麦大棗湯かんばくたいそうとうということも考えられます。

甘草の量が多くなりますので、長期連用する場合は偽アルドステロン症などの副作用に注意が必要です。

半夏瀉心湯の解説はこちら

出典

『傷寒論』(3世紀)

「傷寒中風、医反て之を下し、其の人下利すること日に数十行、穀化せず、腹中雷鳴し、心下痞鞕し満し、乾嘔心煩し安きを得ず。医心下痞を見て病尽きずと謂い、復た之を下せば、其の痞益ます甚だし、(此結熱に非ずして、但だ胃中虚するを以って、客気上逆するが故に鞕せしむる也、)甘草瀉心湯主之」

(訳)
傷寒や中風で(表証があるのに)医者が誤って下法の薬を用いたために、
その人、食べたものは消化されずお腹がゴロゴロ鳴り、下痢が1日に数十回、
心下部はつかえて硬く膨満し、からえずきが起こり、気持ちがおちつかず、安静にしてられない状態です。
医者が心下部のつかえがあるからとまた下法でこれを下そうとしたら、そのつかえはますますひどくなった。
このようなときは甘草瀉心湯で治療します。
(これは邪が結熱したものではなく、胃中が虚したことによるものなので、
痞鞕の原因になっている客気の上逆を止めるためには甘草を増量して脾胃の虚を補う必要があります)

半夏瀉心湯の構成生薬の中で唯一、甘草だけは平性なので、増量しても寒熱の偏りが生じません。

『金匱要略』(3世紀)

狐惑の病為る。状は傷寒の如く、黙黙として眠らんと欲すれど、目閉ずるを得ず、臥起安からず。喉を蝕すをと為し、陰を蝕すをと為す。飮食を欲せず、食臭を聞くを悪む、其の面目たちまち赤く、乍ち黒く、乍ち白し。 上部を蝕せば則ち聲(=声)喝す。甘草瀉心湯主之。

『金匱要略』では甘草瀉心湯を「狐惑の病」というものに用いています。

「狐惑の病」という言い方からして、狐にまどわされたような精神症(憑依症状)だという理解もされていますが、
条文には「その病状が傷寒のようで…喉をおかされたのは惑であり、陰部をおかされたのが狐である」とあり、これを口内炎や陰部の潰瘍と考えれば、
発熱、口内炎、陰部潰瘍、精神症状、消化器症状、眼症状などから、現在のベーチェット病に似たものだとも考えられています。

ただ、日本では江戸時代の名医が、夢遊病の患者を「狐惑病」だとして甘草瀉心湯で治したという話も知られています。

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