辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)の解説
辛夷清肺湯は、
鼻の通りを良くする作用のある辛夷と、
肺の熱を清する(鼻の奥の炎症をしずめる)生薬が配合された漢方薬です。
炎症性の鼻閉(鼻づまり)や、濃くて黄色い鼻汁のある鼻症状に適します。
構成生薬
鼻のつまりを解消する辛夷が主薬です。
石膏・知母・黄芩・山梔子は、清熱薬です。肺熱を清する効果で、呼吸器の炎症をしずめます。
升麻は炎症による腫れの痛みを和らげます。
麦門冬・百合・知母・枇杷葉などは、肺(咽喉部など)を潤す効果があります。
また、枇杷葉は気を降ろすはたらきで、咳をおさえます。
辛夷は温性ですが、その他はほぼ寒涼性の生薬です。
効能効果
【医療用エキス製剤】
鼻づまり(鼻閉)、慢性鼻炎、蓄膿症
【薬局製剤】
体力中等度以上で、濃い鼻汁が出て、ときに熱感を伴うものの次の諸症:
鼻づまり、慢性鼻炎、蓄膿症(副鼻腔炎)
特徴
辛夷清肺湯には、炎症をしずめる生薬だけでなく、
肺熱によって陰分が失われる状態に対し、乾燥を潤すための生薬できちんとフォローしているのが特徴です。
つまり、急性期の鼻の炎症というよりも、慢性化している症状にも対応しているということです。
直接的な抗炎症に、潤す効果も加わり→肺熱を冷ます→炎症をしずめる、それによって、鼻づまりを解消したり、膿の発生を抑えたりします。
よって、咽喉や鼻の乾燥感をともなう、慢性化した鼻の症状(慢性鼻炎や蓄膿症など)に適した漢方薬です。
その他は後鼻漏、鼻茸、嗅覚障害に応用されることがあります。
一方で、排膿作用や去痰作用の点では弱いです。
痰が多く出るような咳がメインの症状には、他の漢方薬が必要になります。
注意点
- 辛夷清肺湯は、(陰液の消耗によって、)鼻汁は濃く、熱感をともなうものに用います。もし薄くて透明(サラサラ)の鼻汁が出る場合は、冷えが影響しているので、温める方剤である小青竜湯などを検討してください。
- 清熱薬(炎症の熱をしずめる薬)が配合され、胃腸をフォローする生薬は配合されていません。胃腸虚弱で冷え症の人は、注意が必要です。
- よく似た名前の「清肺湯」とは別の漢方薬になります。適する症状が異なりますので、混同されないようにお願いします。
- 「葛根湯加川芎辛夷」との違い・使い分けはこちら
市販薬で「チクナイン」という商品名で売られているものは、辛夷清肺湯です。チクナインには錠剤もあります。
出典
『外科正宗』(1617)
肺熱、鼻内瘜肉、初め榴子の如く、日後漸く大きく、孔竅を塞ぎ、気宣通ぜざるものを治す。
瘜肉:皮膚の一部が盛り上がったもの。
榴子:ザクロの実
※「外科正宗」の処方には、甘草が配合されています。
現在使われている甘草を除いた処方の出典としては、浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』です。
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