【麻黄附子細辛湯】~冷えや寒気を感じるカゼや痛みに用いる漢方薬~

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)の解説

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)の解説

麻黄附子細辛湯まおうぶしさいしんとうは、

麻黄・附子・細辛の3種類の生薬で成り立っていて、その生薬名がそのまま名前になっている漢方薬です。

麻黄まおう細辛さいしん附子ぶしとう」となっているものもありますが、並びが違うだけで同じものです。

高齢者の感冒(カゼ)に使われることが多いですが、

基本的には体力が弱くて冷えの強い人、または冷えをともなう症状、に適しています。

構成生薬

3つとも体を温める生薬です。

附子陽虚ようきょの改善薬で、いわゆる新陳代謝を高める薬です

横になりたくなるような倦怠感があるときに用いることができます。

冷えによる頭痛も改善します。

麻黄・細辛は、ともに軽く発汗させて、体表の寒邪かんじゃを追い出します。

咳をとめる作用もあります。

ということで一般に、高齢者の感冒(風邪カゼ)の初期の症状に適した配合になっています。

また、カゼ以外では、

麻黄・附子・細辛の相乗作用によって、水の代謝を高めて、体内の水分の偏在をととのえる、冷えによる水滞すいたいをのぞく効果(利水作用)も期待できます。

附子・細辛には鎮痛作用もあります。

漢方的にいう寒湿証かんしつしょうと、それによる痛みにも応用することができる構成になっています。

よって麻黄附子細辛湯は次のような症状に用いられています。

適応する症状

  • 感冒、気管支炎、咳嗽、のどの痛み、流感、のどがチクチクするような感冒や熱性疾患の初期
  • アレルギー性鼻炎、水様性鼻汁、慢性副鼻腔炎、花粉症、寒冷刺激で出る鼻水
  • 冷え、四肢の疼痛・冷感、冷えをともなう頭痛、関節痛、神経痛、めまい
  • 帯状疱疹(ヘルペス)後の神経痛(冷えを伴う場合)、寒冷じんましん、日光過敏症
  • 腹圧性尿失禁

添付文書上の効能・効果

医療用エキス製剤では、コタロー・ツムラ・三和の3メーカーがあります。

(コタローのは漢方薬ではめずらしいカプセル剤があるのも特徴です)

【ツムラ】

悪寒、微熱、全身倦怠、低血圧で頭痛、めまいあり、四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症:
感冒、気管支炎

【コタロー】

全身けん怠感があって、無気力で、微熱、悪寒するもの。
感冒、気管支炎。

【三和】

悪寒、微熱、全身倦怠、低血圧で頭痛、めまいあり、四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症:
感冒、気管支炎、咳嗽

使い方のポイント

麻黄附子細辛湯を使用するときのポイント

高齢者や、体力の弱い人、病後や過労によって新陳代謝が衰えて、冷えの傾向のつよい人に用いられます。

カゼに用いる場合、

~麻黄附子細辛湯が適するカゼの特徴~

  • 倦怠感があり、だるい、横になりたい、座っておきたい
  • 背中全体にゾクゾクとした強い寒気を感じる
  • 冷えによって頭痛がおこる
  • のどがチクチクと痛い
  • サラサラの透明な鼻水、または、うすい痰、それによる咳がある

カゼの他で用いる場合でも、

水滞すいたいを除く作用によって、冷えをともなうアレルギー性鼻炎、寒冷刺激によって流れてくる水っぽい鼻水などにも使えます。

また、鎮痛目的で用いる場合であっても、

冷えをともなう、または冷えによって症状が悪化する痛み、というのがポイントです。

3つの生薬だけで構成される麻黄附子細辛湯の効果は、シャープに即効的にあらわれます。

通常は症状のある期間だけ服用すればオッケーで、症状によっては頓服でも効果がみられます。

体質改善の目的で、症状がないのに連用する必要はありません。

副作用・注意点

  • 附子が配合される虚寒証きょかんしょう向き(体力がなく、冷えがある・さむけがある人向き)の漢方薬です。
    のぼせ、ほてり、高熱など、熱証ねっしょうのある人には使えません。
    元気な人、体力が充実している人の服用には向いていません。
  • 麻黄により胃痛、不眠、動悸、排尿障害などの副作用が起こることがあります。
    特に血圧が高い人、心疾患のある人は注意が必要です。(短期間の使用で止めてください)
    症状が治まったら中止して構いません。
    漫然と長期間の服用を続けるべきものではありません。
  • 他の漢方薬と併用する場合は、麻黄・附子・細辛が重複していないか確認してください。
    あえて(小青竜湯など)重複するように処方されることもあり得ますが、分量が多くなれば副作用のおそれも増しますので、慎重にお使いください。
  • 麻黄も附子も細辛もドーピング検査で禁止されている成分が含まれます。
    アスリートの方は注意してください。

漢方的な詳しい解説

麻黄附子細辛湯は『傷寒論』(3世紀)に記載されている方剤で、

陽虚証ようきょしょう(陽気が弱っている人)の感冒の初期に用いる処方とされます。

少陰病始めて之を得るに、反て発熱し、脉沈の者は麻黄細辛附子湯之を主る。

とあります。

補足すると、

少陰しょういんの病というのは、陽気がきょしてしまっており、脈が細く、ただ横になって寝ていたい状態です。
本来は、体は弱って冷えており、熱は出ないはず。
しかし、この少陰の病に入っているのに、発熱が生じており、脈がちんであれば、麻黄細辛附子湯が良いでしょう。

というような内容です。

高齢者や、体力が弱く冷え症の方の感冒は、(太陽病たいようびょうからではなく)少陰病しょういんびょうから始まることも多いです。

陽虚で体は冷えて弱っているのに、体表も風寒ふうかんじゃおかされてしまった状態です。

そこで、

表寒ひょうかんを温める麻黄
裏寒りかんを温める附子
表裏ひょうりともに温める細辛

麻黄で体表の寒邪を発散させ、

同時に附子で体内の冷えを温めて体の機能を改善(陽気の回復)し、

それに細辛を加え麻黄と附子の効果を相乗的にバックアップする。

3つの精鋭生薬の協力プレーによって、寒気と発熱を同時に治します。

少陰病の、表裏双解剤ひょうりそうかいざいといわれます。

ちなみに、脈での判断は専門家じゃないと難しいですが、
悪寒と発熱があって、
脈が浮いている → 麻黄湯
脈が沈んでいる → 麻黄附子細辛湯
となります。

また、比較的症状(表寒)がかるくて、咽の痛み(チクチク)や咳がメインのときは、

麻黄附子細辛湯の、細辛を甘草に入れ替えたもので、エキス剤にはありませんが、麻黄甘草附子湯まおうかんぞうぶしとうが使われることがあります。

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