滋陰降火湯(じいんこうかとう)の解説
滋陰降火湯は、身体に潤いを与える(⇒滋陰)、それによって、上昇する熱症状を抑える(⇒降火)という漢方薬です。
うるおい不足による、切れにくい痰、咳、口腔乾燥などに用いられています。
構成生薬について
※医療用エキス製剤(ツムラ)では蒼朮(ソウジュツ)
咳の症状に使われることが多い滋陰降火湯ですが、
咳をしずめる効果のある生薬で構成されているわけではありません。
しいていえば、麦門冬、天門冬、陳皮(去痰)くらいのものです。
補陰薬(陰液を補う薬)が多く配合されています。
つまり滋陰降火湯は、潤いを与えるための薬がメインの配合です。
天門冬・麦門冬(・知母) ⇒ 滋陰
地黄・当帰・芍薬 ⇒ 補血
で潤いをもたせます。
陳皮・朮・甘草は、胃腸のはたらきを整えて、栄養の吸収をサポート。他の胃に負担をかけやすい生薬による胃もたれや下痢を予防する目的もあります。
黄柏・知母 ⇒ 清熱
で、虚熱(陰液不足による熱症状)を抑え、さらなる陰液消耗を防ぎます。
身体に潤いを与えつつ(滋陰)、上昇する熱を抑える(降火)ということで、滋陰降火湯という名前の意味になります。
結果として、潤い不足による、乾いた咳、口内の乾燥の症状に応用することができます。
麦門冬:肺陰を養う
知母+黄柏:滋腎により虚熱を冷ます
効能効果
医療用エキス製剤(ツムラ)
のどにうるおいがなく痰の出なくて咳こむもの
薬局製剤(煎じ薬)
体力虚弱で、のどにうるおいがなく、たんが切れにくくてせきこみ、皮膚が浅黒く乾燥し、便秘傾向のあるものの次の諸症:
気管支炎、せき
のどにうるおいがなくて、乾燥した咳、というのが重要なポイントです。
また、(日本の)漢方の書物には、滋陰降火湯の使い方として「皮膚が浅黒いこと、大便は硬く下痢はしないこと、呼吸音は乾性ラ音の咳嗽に良い」(矢数有道)
「冬になると咳が出て夜間眠れない老人で、とくに炬燵に入って体が温まると咳が悪化するものに良い」(大塚敬節)とあります。
滋陰降火湯のポイント
滋陰降火湯を用いるのは、
身体の潤いの低下により、冷ますことができなくなった体内の熱が、上半身に昇ってきている状態です。
肺の乾燥とそれによる咳に適してして、もともと肺結核の治療に使われていた方剤です。
症状としては、おもに乾燥した咳、高齢者の空咳など。
咳止めとして処方されたとしてもそれは、咳止めの薬としてというよりも、
その原因となっている、潤いの不足を改善しようという目的があります。
ですので体質が異なれば、効果が得られません。
逆に、咳がなくても、陰液の不足によって上半身に熱証がでていれば、滋陰降火湯が応用されるがあります。
例えば、口腔内の乾燥、シェーグレン症候群など。
皮膚が浅黒く乾燥している(血虚)、便秘気味の人(津液不足)に適することが多いです。
服用して下痢や胃もたれを起こすときは、合っていない可能性があるので、使用を控えてください。
滋陰至宝湯との違い
滋陰降火湯と滋陰至宝湯
名前が似ていて、どちらも慢性の咳に用いられるので、混同されやすいかもしれません。
重複する生薬も多いのですが、
滋陰至宝湯には配合されていなくて、滋陰降火湯に配合されている生薬をみますと、
地黄・天門冬・黄柏です。
これらは腎に帰経する生薬ですので、あきらかに滋陰降火湯の場合は、腎陰虚(潤いの低下)に配慮した方剤ということが言えます。
一方、滋陰至宝湯は、逍遥散ベースの方剤です。ですので、まず加味逍遥散が適するようなタイプ(精神症状の訴えがある)で、肺陰虚による慢性の咳をともなうときに適します。
なお、どちらももともとは肺結核に使われていた方剤です。
出典
『万病回春』(16世紀)
陰虚火動にて、発熱、咳嗽、痰を吐いて、喘急し(ゼーゼー)、盗汗(寝汗)して、口が乾くのを治す。この方に六味丸を与えて相かねて(両方を合わせて)これを服す。大いに虚労を補う神のような効あり。(虚労門)
陰虚火動…(肺腎の)陰虚による相火の暴走
黄柏→腎の虚熱を抑える
六味丸→腎陰を補う
⇓
知柏地黄丸
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