補虚薬(ほきょやく)の概念

補虚薬

17.補虚薬

補虚薬とは、虚(=足りていないもの、弱いもの)を補う薬で、

正気を補う、体質を改善させる、病気に対する抵抗力を増強させるといった、虚弱状態の改善のため、いわゆる虚証に用いられる生薬のグループです。

補虚薬はまた状況に応じて補益薬、補養薬とも呼ばれます。

虚証はまず大まかに4つの種類がありますので、それを補う薬の性質や応用範囲によって、補虚薬も4つに分類されます。

虚証補虚
気虚補気(益気)
陽虚補陽(助陽)
血虚補血(養血)
陰虚補陰(滋陰)

補虚薬の使い方の原則と実際

虚証に対する治療の原則は、「補法」ですので、
それぞれの虚に応じて、それに対応する補虚薬を選べば良いのです(つまり、気虚の証には気を補う薬、陽虚の証には陽を助ける薬、血虚の証には血を増やす薬、陰虚の証には陰を滋養する薬)が・・・

ただ実際の臨床で使われるときは、より効果的になるような配合で応用されていることが多いです。

気血や陰陽は、それぞれ単独で働くわけではなく、相互に依存し合っているからです。

例えば、
気虚が陽虚に移行することがありますし、
どちらも機能面の低下という側面から、陽虚では気虚も包括していることがあります。

また同様に、血虚が陰虚に移行することがありますし、
どちらも物質面の不足という側面から、陰虚では血虚も包括していることがあります。

さらに、
気虚のために血を作る力が弱く、次第に血も虚してくるおそれがあったり、
血虚のために臓腑が養えず、気虚や陽虚を引き起こしている可能性があったり、
いずれかの不足が、他に影響を及ぼすことも想像しなければいけません。

もちろん、病態によっては、気血が一緒に消耗して、同時に虚することもあります。

気血両虚、気陰両虚、陰陽両虚などの少し複雑な状態です。

そのため実際には、補気+補陽とか、補血+補陰とか、
「血虚の人に使う漢方薬」と言ってもその中身は実は補血薬だけではなく、補気薬も一緒に配合されているおかげで補血の効果がより高められているとか、
さまざまに組み合わせて使用されているわけです。

使用の際の注意点

◆外邪(病邪)が存在するときは、原則的には、補うことよりも先に病邪を追い出すことを優先に考えなければいけません。つまり、何か体質改善のための漢方薬を服用している人がもし風邪などの病気にかかったとしたなら、一旦体質改善の薬は止めて、症状を早く治す薬に切り替えるべきです。ただし、正気が虚しているときは、袪邪する薬の中に、適当な補虚薬を併用して、体力をつけて抵抗力を高めるのと外邪を追い出すのと同時に行うことも場合によっては必要です。

◆また、補う薬はたくさん飲めば飲むほど元気になる、長く飲めば飲むほど若さを保てる、というものではありません。あくまでも虚の状況に応じて使用するものです。体に良さそうだからと漫然と服用することも注意が必要です。特に、陰虚で虚熱のあるのに陽気を補う薬が入っている、あるいは陽虚で冷えがあるのに陰液を増す薬が入っている、などはマイナスな結果になってしまうこともあります。

◆虚証の原因についても考慮しましょう。虚証を引き起こす原因は様々ありますが、だいたい↓のようなことが考えられます。

  • 先天的(体質的)な虚弱
  • 慢性疾患(闘病)にともなう体力の消耗
  • 疾患による(病理的な)機能面や栄養面の低下
  • 過度の疲労、生活の不摂生、極端なダイエット
  • 出血、嘔吐、下痢、激しい発汗
  • 精神的ストレス

◆煎じ薬の場合、補剤の効果を得るためには(古典においても)長めに煎じることが望ましいとされていて、煎じる時間(60分前後とか)も指示された場合はきちんとお守りください。

 

各虚証のそれぞれの具体的な症状については、各補虚薬のページでまとめます。

また、ここでは概念だけで詳細は省略していますが、
適切な治療をする場合は、どの臓腑の虚証なのか、というところも重要になりますので、
(例えば、気虚証であれば脾気虚や肺気虚、陽虚証であれば腎陽虚や脾陽虚、心陽虚など)
それぞれの生薬がどの臓腑にはたらく(帰経する)かなどの特徴に応じても使い分けることになります。

 

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