冷え症の漢方薬
「手足が氷のように冷たい」
「温めても芯から温まらない」
冷えは単なる不快感ではありません。
月経痛や不妊、肩こり、胃腸障害、むくみ、不眠、免疫の低下まで、体の多くの不調とつながっています。
古くから言われる「冷えは万病のもと」は、血流・自律神経・ホルモン・免疫の総合的な乱れとしての“冷え”を言い表しています。
漢方では、原因の異なる冷えを見極め、体質に合わせた方剤で冷えの根本から改善することを目指します。
冷え症によくあるお悩み
- 夜、足先が冷えて眠りが浅い/途中で目が覚める
- 夏でもエアコンで体が重だるくなる、腹部が冷えて下痢しやすい
- 顔はほてるのに下半身は冷たい(のぼせ・上熱下寒)
- 冷えると月経痛が強くなる、周期が乱れる
- 冷えと同時にむくみ・肩こり・頭痛が出やすい
こんなとき、症状の程度だけで「冷えのつらさ」を捉えるのではなく、体内で何が起きているのか(熱が十分に作れていないのか、熱を巡らせられていないのか等)を正確に把握することが、改善への近道です。
冷えを漢方でどう捉えるか
漢方では、体のエネルギーや血の量・質、水分代謝、そして心身の緊張状態までを総合して冷えを評価します。
同じ“冷え”でも原因は複数あります。
大きくは次の二軸で整理できます。
- 熱を「産生できない」タイプ:体を温める力(陽気)や、熱を運ぶ材料(血)が不足している
- 熱を「巡らせない」タイプ:血の滞り(瘀血)やストレス(気滞)で熱が届かない
「とにかく温める」だけに偏ると、のぼせ感やだるさが悪化することがあります。
温めるだけでは不十分——それが漢方が得意とする視点です。
症状の現れ方でみる4つのパターン
● 全身型(陽気不足)
朝から体温が上がりにくく、一日中寒い・だるい・胃腸が弱い。厚着や入浴で一時的に温まってもすぐ冷える。
⇒方針:陽気と脾胃(胃腸)を立て直して、熱の産生力を底上げ。
● 四肢末端型(気血不足)
手足の冷えが顕著。しもやけ、月経不順、立ちくらみ。体幹はそこまで冷えないことも。
⇒方針:血を補い、末端まで巡らせる。
● 上熱下寒型(瘀血)
冷えのぼせ(上半身はのぼせるのに、下半身は冷える)。頭痛・肩こり・月経痛が強く、便秘や塊のある出血を伴うことも。
⇒方針:気血を巡らせて、上下の温度差を解消。
● 体感異常型(肝鬱)
ストレス場面で冷えが増す/環境変化で冷えを感じる。緊張・胸脇の張り・ため息を伴いがち。
⇒方針:疏肝理気。気の巡りを整えて、血液循環をサポートする。
冷えの体質別漢方
陽虚(ようきょ)
体を温める根本エネルギーが不足。エンジンの火力が落ちている状態です。
全身が冷え、疲労感・胃腸虚弱・下痢傾向が目立ちます。朝から体温が上がりづらく、厚着をしても芯が冷えたままになりやすい。
腎の陽気を補い、または脾(胃腸)を立て直して、エネルギーを生み出せる体質に改善する方剤を用います。
代表的な漢方薬:八味地黄丸/人参湯 など。
血虚(けっきょ)
血が不足し、手足の末端に体温と栄養が行き届かない状態です。貧血傾向、乾燥肌、爪が割れやすい、動悸、立ちくらみを伴いやすい。
循環血を増やし、末端まで栄養と熱を運ぶ方剤を用います。
代表的な漢方薬:当帰四逆加呉茱萸生姜湯/当帰芍薬散 など。
血瘀(けつお)
血液の流通が滞り、下半身の冷え・局所の痛み・こりを作ります。上はのぼせ、下は冷えという上熱下寒になりやすく、頭痛や肩こり、月経痛が強いことも。
瘀血を改善し、体温を均一に行き渡らせる方剤を用います。
代表的な漢方薬:桂枝茯苓丸/桃核承気湯 など。
気滞(きたい)
ストレスや緊張で自律神経が乱れ、血管の収縮や発汗により、体感異常が起こります。天気や環境で冷えの感じ方が大きく変動したり、胸脇部の張り、ため息、イライラを伴う。手足が冷たいことを自覚していない場合もあります。
気の流れを整え、冷えにくい体質に整える方剤を用います。
代表的な漢方薬:四逆散/逍遙散 など。
※これらの他、体質、既往歴、薬歴なを踏まえて、最適な漢方薬をお選びいたします。

