芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)
構成生薬の、川芎・当帰・阿膠・艾葉・芍薬・地黄・甘草のうち、
川芎・当帰・阿膠・艾葉の4つの生薬から一文字ずつとって「芎帰膠艾湯」
基本的には「止血薬」として、
女性の不正出血や、月経過多などに使われることが多い漢方薬です。
構成生薬
- 川芎(センキュウ)※
- 当帰(トウキ)※
- 阿膠(アキョウ)
- 艾葉(ガイヨウ)
- 芍薬(シャクヤク)※
- 地黄(ジオウ)※
- 甘草(カンゾウ)
※の4つで四物湯(しもつとう)です。「補血」の基本となる方剤が入っています。
構成生薬を整理すると
芎帰膠艾湯=四物湯+(艾葉・阿膠・甘草)
「四物湯」を基本にして、それに艾葉・阿膠・甘草を加えた処方と説明することができます。
ですが、
芎帰膠艾湯は『金匱要略』(3世紀)の方剤で
四物湯は『和剤局方』(12世紀)の方剤。
歴史的には芎帰膠艾湯の方が、四物湯よりもずっと古いので、
実際は、芎帰膠艾湯から艾葉・阿膠・甘草を抜いて、シンプルにしたものが四物湯ということになります。
いずれにしても、四物湯、つまり血虚がベースにあるときの方剤だということは変わりません。
艾葉・阿膠・甘草について
四物湯の地黄・当帰・芍薬・川芎以外の3つの生薬について補足しておきます。
艾葉(ガイヨウ)
いわゆるヨモギ。
草団子やお餅などに食品としても使われますし、
お灸に使う「もぐさ」、韓国の健康法「よもぎ蒸し」などでも知られるあのヨモギです。
下腹部をよく温める生薬です。
また艾葉には安胎作用があるとされています。
下半身、特に女性では子宮を通る経脈を温めて、気血の流れを良くして、血の漏れるのを止めます。
四物湯に含まれる当帰の、冷え・腹痛・月経痛の緩和に対するはたらきを補助します。
阿膠(アキョウ)
いわゆるゼラチン。
正確にはロバ(ウマ科)の、コラーゲンを含む皮・骨・じん帯などを煮込んでつくる膠(にかわ)です。煮こごりみたいなもの。
ロバから作る阿膠は貴重なので、現在はブタやウシなど他の動物由来のコラーゲン(局方のゼラチン)で代用していることが多いです。
コラーゲンが入っていると聞くと、肌や血管に良さそうというイメージですが、
生薬としての阿膠は、
膀胱炎や血尿などのときに使われる猪苓湯(ちょれいとう)にも配合されているように、止血の効果が期待される生薬です。
これも四物湯の補血・滋陰のはたらきをさらに補い、止血の効果がプラスされます。
甘草(カンゾウ)
甘草は諸薬を調和させるためもありますが
四物湯の中に芍薬が入っていますので
芍薬+甘草⇒芍薬甘草湯となり、止痛の効果も加わっています。
構成のまとめ
まとめますと、芎帰膠艾湯は
四物湯+艾葉・阿膠・甘草
つまりは血虚の改善+止血(と止痛)の薬と考えることができます。
止血薬として考えるなら、大事な生薬は、阿膠と艾葉です。
芎帰膠艾湯のことを、略して「膠艾湯」と呼ばれるのも妥当です。
芎帰膠艾湯の効能・適応症状
- 不正性器出血、月経過多
- 出産後(または流産後)の出血(が止まらない)
- (持続的な)痔出血、下血、血尿、子宮出血、皮下出血、外傷後の内出血
- 貧血症
医療用の芎帰膠艾湯の効能・効果
痔出血
ツムラ芎帰膠艾湯エキス顆粒(医療用)添付文書
冷え症で、出血過多により、貧血するもの。痔出血、外傷後の内出血、産後出血、貧血症。
コタローきゅう帰膠艾湯エキス細粒添付文書
メーカーによって承認されてる効能効果が異なりますので、注意してください。
作用の特徴
出典である『金匱要略』においての芎帰膠艾湯は、婦人の不正出血を治すための方剤です。
- 妊娠中の異常な出血
- 出産後の出血がなかなか止まらない
- 月経後の出血がだらだらと続く
- 出血量が多くて貧血を呈したとき
など、まとめて婦人の持続的な不正性器出血に用いられる処方です。
ですが、生薬の配合通りに「四物湯+艾葉・阿膠・甘草」と考えれば、「血虚の改善+止血(と止痛)の薬」でしたので、
まず「血虚」が基礎にあったとしたら、例えば
- 顔色が悪い
- 皮膚につやがない
- 皮膚がかさかさしている
などがみられ、そして出血があるときは、
- 不正性器出血
- 産後の出血
- 月経過多症
またはその他の下部出血
- 尿路(腎臓・膀胱)出血による血尿
- 腸からの出血による下血(血便)
というものにも応用できることになります。
一般的には、下半身・下腹部の出血に用いられています。
副作用・注意点
西洋薬の止血剤のような即効性はありません。
処方全体として温める薬なので、「冷え症」の人向きの方剤です。
とくに艾葉は、下腹部を温め、血をめぐらせるので、炎症性・充血性の出血には適さないことがあります。
明らかな瘀血、例えば子宮筋腫のようなものに対しても使いません。
芎帰膠艾湯で出血が止まらないときは、黄連や黄芩などを配合した清熱薬(黄連解毒湯など)で止血した方がいい場合もあります。
また、芎帰膠艾湯は四物湯を含む方剤ですので、四物湯と同様で、胃腸虚弱の方には合わないことがあります。
胃腸をフォローしたり、補気の作用のある生薬は、配合されていません。
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