物忘れの改善薬とされる遠志(オンジ)の漢方的な効果とは

2015年(単味)生薬のエキス製剤の製造販売承認申請に係るガイダンスが取りまとめられ、

その中で効能が認められている、遠志(オンジ)の「中年期以降の物忘れの改善」というものに各社注目したようで・・・その後、ただの遠志(オンジ)だけではなく、ワスノン、キオグッド、キノウケア、そしてアレデルといったなんだかネーミング合戦のような様々な商品が立て続けに発売されてきましたが、中身は同じ、遠志(オンジ)エキスの製品です。

ただ、ネーミングで言えば、遠志(オンジ)という名前はそもそも、
遠い将来にまで志(こころざし)をもつことができる、
つまり、未来への志を強く持って、精神的に前向きに頑張っていくことができる、ということなので、
生薬名の「遠志」そのものが、ネーミング的にはとても良いものだと個人的には感じます。

遠志(オンジ)の 漢方的効能

遠志とは、ヒメハギ科イトヒメハギの根または根皮を用いた生薬です。

養心安神薬(ようしんあんじんやく)に分類される生薬で、酸棗仁(サンソウニン)などと同じ仲間に入ります。漢方薬では、加味帰脾湯(かみきひとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)にも遠志が配合されています。これらの漢方薬において、遠志の配合されていることの重要性を科学的に検証しようとされているところではありますが、

まず遠志の漢方的効能について理解しておきたいと思います。

遠志の養心安神の作用とは

まず、中医学的には「心は神を蔵す」と言います。
神(しん)は、精神活動、意識の状態をつかさどっているものです。
もし意識がないのであれば、神が失われているので、いわゆる「失神」です。

「心は神を蔵す」ので、五臓の「心」に「神」が存在しています。
だから、もし「心」が弱くなると、意識や精神に異常が起こりやすくなります。
考えて判断したり、記憶したり、それにより行動をとったりが、きちんと行えなくなります。
不安になって動悸がしたり、落ち着かなくなったり、眠れなくなったり、眠れたとしても夢ばかりみて熟眠できなかったりもします。そして、物忘れが増えたりする状態がみられるようにもなります。

そういう症状に対して使われる薬のひとつが養心安神薬です。
つまり養心安神薬とは、「心」を養うことによって、精神を安定させる薬、ということです。
比較的、虚証の方に用いられます。

物忘れに対する養心安神の作用

精神的に不安定だったり、意識の集中が保てなかったりすることが原因で、記憶する-思い出す、脳の引き出しにしまう-取り出す、という機能が乱れる。
逆に、良い眠りで脳が休まり、精神的に元気になれば、それによって脳の働きも良くなる。記憶が整理されやすくなる。
だから遠志は、精神の安定をさせると同時に、物忘れ(健忘)の改善に用いることができるというわけです。

ただし、お分かりだと思いますが、
漢方的に解説する場合と、西洋医学的なアルツハイマーのような認知症の治療薬の機序の解説とは根本的な考え方が異なります。
現代医学的な遠志の作用機序についての研究はまだまだ始まったばかりだと思いますので、商品パッケージや広告などを見ていると、例えば認知症の予防にも効果があるのか、例えば受験のための記憶力向上にも効果があるのか、など色々と気になってくるところでしょうけど、
あくまでも現状で、市販の遠志に効能効果が認められているのは「中年期以降の物忘れの改善」だけですので、誤った使い方は避けてください。

注意点3つ

物忘れの原因はさまざま

物忘れには、 加齢による生理的な物忘れ(良性の健忘)、初期の軽度の認知症、ストレス、うつ、またはそれ以外の原因による認知障害、その他さまざまな疾患も原因として考えれます。
上述したように、遠志を服用したとしてもすべての物忘れが改善されることはありません。
日常生活に影響する問題でもありますので、心配な場合は早めに医療機関できちんとした診断を受け、必要な治療をされてください。

血糖値の検査への影響

遠志の商品の<成分・分量に関連する注意>の欄には、
「本剤の服用により、糖尿病の検査値に影響を及ぼすことがあります。」
(オンジ(遠志)は、1,5アンヒドロ-D-グルシトール(AG)を含み、その血中濃度を高めるため、糖尿病検査の1,5-AG検査に影響を及ぼすおそれがある)
と記載されています。

血液検査で、過去数日間の血糖コントロールの指標になる、1.5-AG(アンヒドログルシトール)という糖の値があります。血液中の1.5-AG濃度は、食事の影響を受けにくく、通常はほぼ一定の値です。高血糖が続くと、1.5-AGの腎臓から尿中への排泄量が増えて、血液中の1.5-AGが減ります。逆に血糖値が下がると、1.5-AGの腎臓から尿中への排泄量が減り、血液中の1.5-AGが増えます。

そこで問題になるのが、遠志(オンジ)にはその成分に1.5-AGが含まれることです。遠志を含む漢方薬の摂取によって血液中の1.5-AGの値が増えると、糖尿病の人でも、血糖コントロールが急に改善されたかのように読み取られてしまうことがあります。

その場合、遠志だけでなく、遠志を含む漢方薬として、人参養栄湯、帰脾湯、加味帰脾湯などの服用を疑う必要があります。

体質

また漢方的に、遠志の性質として、苦味・辛味・温性で燥性です。
陰虚火旺(潤い不足で乾燥や熱感)のある場合は、遠志を単独で摂り過ぎるのは気を付けるべきだと思われます。 胃炎のときなども控えた方が良いでしょう。

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