夜中に何度も目が覚める方へ
年齢を重ねるにつれ、眠りの質が変化したと感じる人は少なくありません。若い頃のように長時間ぐっすり眠れなくなったり、夜中に何度も目が覚めたり、早朝に目が覚めてそのまま眠れなくなることがあります。こうした変化は、高齢になるほど顕著に見られる傾向があります。
高齢者の場合、深い睡眠の時間が減少し、眠りが断片的になりやすくなります。さらに、夜間の頻尿や日中の活動量の低下、早寝早起きの習慣、夕方以降の居眠りなどが重なることで、眠りはますます不安定になりがちです。
そのため、高齢者の不眠を単に「眠る力が衰えた」と片付けるのではなく、その原因を多角的に捉える必要があります。漢方では、眠りそのものだけでなく、なぜ夜中に目が覚めるのか、なぜ早朝に目が覚めてしまうのか、眠りが浅くなる要因は何かといった問題を、体全体の状態から総合的に考察していきます。
高齢者に多い「眠れない」悩みとは
高齢者の不眠は、若い世代の不眠とは異なる特徴があります。寝つきが悪い場合もありますが、特に多いのは、夜中に何度も目が覚めたり、トイレに行った後に再び寝つけなかったり、早朝に目が覚めてしまうといったケースです。
さらに、「眠れない」というよりも、眠ってはいるものの浅い睡眠であったり、夢を見ることが多かったり、朝起きても十分に休めた感じがしないといった訴えもよく聞かれます。高齢者は、若い頃に比べて睡眠時間そのものが短くなる傾向があります。そのため、必要以上に長く寝ようとして布団にいる時間を増やすと、逆に寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めやすくなったりすることがあります。
睡眠においては、単に時間の長さだけでなく「休めた感じ」が重要であることが、厚生労働省の資料でも指摘されています。
高齢になると眠りが浅くなりやすい理由
加齢に伴い、夜間に実際に眠れる時間が徐々に短くなり、早寝早起きの傾向が強まります。また、高齢者では、日中に十分な光を浴びる機会が減少し、外出や運動、会話、規則正しい食事の頻度が少なくなることがあります。その結果、眠りのリズムが乱れやすくなります。さらに、夕方以降にうとうとしやすくなることも、睡眠に影響を及ぼす要因の一つです。
特に大きな要因として挙げられるのが夜間尿の問題です。高齢者は眠りが浅くなることで、目が覚めた際に尿意を感じやすくなったり、逆に尿意によって目が覚めたりすることがあります。このため、不眠に対して単に薬を検討するだけでは不十分な場合があります。夜間尿や冷え、体力の低下、足腰の衰えなど、睡眠を妨げる原因を総合的に見直すことが重要です。
高齢者の不眠を漢方ではどう考える?
漢方では、高齢者の不眠を単に「神経が高ぶっている状態」と捉えるだけではありません。むしろ、年齢とともに身体を支える力が衰え、それに伴い眠りを維持する力も低下していると考えることが一般的です。
例えば、体力が低下し、疲れやすく、日中にだるさを感じる一方で、夜は眠りが浅いという方がいます。このような場合、単なる鎮静ではなく、消耗した身体を根本から支える視点が重要となります。
また、高齢者の中には、わずかな物音で目が覚めたり、気持ちが不安定で夜に落ち着かない、家族のことや健康のことを考え込んでしまうといったタイプも見られます。この場合には、神経の高ぶりや不安を和らげるようアプローチします。
さらに、夜間頻尿や冷え、足腰の衰えが目立つ方では、単に眠りそのものを改善するだけでなく、夜中に起きやすくなる原因を整えることが重要です。
高齢者の不眠に対しては、「眠りを鎮める」「身体を支える」「妨げとなる要因を減らす」という三つの視点を同時に考慮することが多く、その人に合った適切な対応が必要になります。
不眠全体の考え方や、ほかのタイプの不眠については、不眠の総合ページでも解説しています。

高齢者の不眠に使用される漢方薬の例
高齢者の不眠に対して漢方薬がよく利用されますが、不眠の原因は、夜中に目が覚める理由、不安感、体力の状態、夜間尿の有無などによって異なるため、それぞれの状況に応じた対応が求められます。
酸棗仁湯
酸棗仁湯は、疲れているのに眠れない、眠りが浅い、夜中に目が覚めやすいといった症状に適した方剤です。高齢者の場合、強い興奮よりも消耗や眠りの浅さが目立つときに。不眠の原因が心身の疲労や血不足に関連している場合に検討します。
帰脾湯
帰脾湯は、疲れやすく気力が出ない、動悸がしやすい、考え事が多くて眠れないといった症状に用いられることがあります。高齢者で、眠りだけでなく体力低下、心配性、食欲低下など複数の問題が重なっている場合に適した方剤です。心身の疲れや動悸、倦怠感が原因で不眠を引き起こしている場合に適します。
抑肝散
抑肝散は、神経が張って眠れない、些細なことで気が立つ、夜になると落ち着かないといった症状に適した方剤です。高齢者の場合、単なる怒りっぽさではなく、神経の過敏さや落ち着かなさとして現れることも多いです。イライラや神経過敏が原因で不眠を引き起こしているケースに使用します。
夜間尿や冷えが強い場合
高齢者の場合、眠れない原因は単に不眠症だけでなく、夜間尿や冷えが眠りを妨げていることがあります。このような場合、睡眠を改善するための対策だけでなく、下半身の冷えや排尿の状態などを考慮し、別の視点から対応策を検討することが重要です。
⇒頻尿・夜間尿の漢方薬についてはこちらで解説しています。


「必要以上に長く寝ようとしない」ことも大切
高齢になると、若い頃と同じだけの睡眠時間を確保するのが難しくなる場合があります。そのため、「もっと長く寝ないといけない」と考えて早めに就寝したり、朝遅くまで布団にいると、かえって途中で目が覚めやすくなり、熟睡感が得られにくくなることがあります。長時間布団の中で過ごすことは、寝つきの悪化や夜間覚醒を増やし、睡眠の質を低下させる要因となることが、厚生労働省や日本睡眠学会の資料でも示されています。
さらに、高齢者にとっては昼寝の取り方も重要です。昼食後から午後3時ごろまでの短時間の昼寝は有益ですが、夕方以降の居眠りや長時間の昼寝は、夜の寝つきや睡眠の維持を妨げることがあります。また、日中にしっかりと光を浴び、適度な運動を取り入れ、生活リズムを整えることが、良質な睡眠を保つ基本となります。
高齢者の不眠でお悩みの方へ
高齢者の不眠は「年齢のせいだから仕方ない」と片付けられがちですが、実際には夜間頻尿や冷え、体力の低下、不安感、生活リズムの乱れなど、さまざまな要因が絡み合っていることが多いです。
眠りそのものだけに注目しても改善が難しい場合がありますが、逆に、眠りを妨げる背景要因を整理することで、解決への糸口が見えてくることもあります。
特に以下のような症状がある方は、全身の状態を総合的に考えることが重要です。
- 夜中に何度も目が覚める
- トイレの後に再び眠れない
- 朝早く目が覚めてしまい疲れが取れない
- 不安感や神経過敏がある
- 冷えや足腰の弱りが気になる
また、強いいびきや呼吸停止、足のむずむず感など、別の睡眠障害が関与している可能性も考えられます。高齢者ではこうした睡眠障害のリスクも高まるため、背景要因をしっかり確認することが大切です。
漢方では、単に眠りを深めるだけでなく、
– 眠りを保つ力をサポートすること
– 夜間に目が覚めやすくなる原因を整えること
を重視してアプローチします
眠りの質が変わり、どう対処すればよいかわからない方は、睡眠時間だけでなく、体全体の状態を見直してみられることをおすすめします。
不眠の漢方相談について詳しく知りたい方は、総合ページをご覧ください。



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