103回薬剤師国家試験から「附子(ブシ)」に関する出題の解説

「附子(ブシ)」に関する出題の解説

薬剤師国家試験に、附子に関する問題が出題されていましたので、解説しておこうと思います。

問題

問214-215 

54歳女性。再発転移性乳がんに対する化学療法としてドセタキセル・シクロホスファミド療法(4コース)を外来通院で行っている。2コース目で手指のしびれと痛みを訴えたため、牛車腎気丸エキス顆粒とブシ末の処方が追加された。

(追加処方)

牛車腎気丸エキス顆粒 1回2.5g(1日7.5g)
ブシ末        1回0.5g(1日1.5g)
1日3回 朝昼夕食前 14日分

問214

追加処方の副作用として注意が必要な症状はどれか。1つ選べ。

  1. 腰痛
  2. むくみ
  3. 動悸
  4. 冷感
  5. 排尿困難

問215

前問において副作用の主な要因となる生薬は、日本薬局方に収載されている。この生薬に関する記述のうち、正しいものはどれか。2つ選べ。

  1. キンポウゲ科植物ハナトリカブト又はオクトリカブトの葉を基原とする。
  2. 加工調製(修治)によってブシジエステルアルカロイド含量が増加する。
  3. 加工調製法が異なると総アルカロイド含量の規格値も異なる。
  4. 純度試験としてブシジエステルアルカロイド含量の上限値が設定されている。

補足

以上2問、附子の副作用について、それと、局方の附子について、が問われています。

ドセタキセル・シクロホスファミド療法は、TC療法といい、3週ごとに4回点滴で行う治療です。

1回目は入院して行うと思いますが、2回目以降は通院での治療が可能です。

問題文にあるように、一般的に抗がん剤による手足のしびれは、投与後2~3週以降に徐々に現れてくる可能性がある副作用で、

症状の軽減のために牛車腎気丸が処方されることが実際にあります。

今後も、化学療法の副作用に対して牛車腎気丸が使われるケースが増えてくるかもしれないので、国家試験にこのような問題が出題されることには必然性があるように思います。

さて、

問題の内容に関しては、牛車腎気丸の中にはすでにブシが配合されているのにも関わらず、

わざわざあからさまに、ブシ末を増量しているし、選択肢の中に含有成分を「ブシ~アルカロイド」と分かりやすく書かれているくらいなので、

問215は「前問において副作用の主な要因となる生薬は、」と回りくどく書かずに

「ブシ末は、」とストレートに書き始めても良かったのではないかと思います。

TC療法のことや、牛車腎気丸のことを知らなくても、附子(ブシ)が分かっていれば解けるという、つまり、問題としてはちょっとサービスされている感じがしてしまいます。

1問目の解答-附子(ブシ)の副作用について

では、問の解説です。

附子の副作用について。

処方されているのは、まず「牛車腎気丸エキス顆粒」とありますが、

医療用で処方される牛車腎気丸のエキス製剤は「ツムラ」のものしかないので、

とりあえずツムラの牛車腎気丸の添付文書を一応確認しておきますと、見てしまえば一目瞭然ですが、

効能又は効果

疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少または多尿で時に口渇がある次の諸症: 下肢痛、腰痛しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ

つまり、選択肢にある「3.動悸」以外の症状は、副作用ではなく、効能・効果の症状となります。

そして、副作用欄には、やはりブシが配合されていることによる心悸亢進があります。

附子(ブシ)には、新陳代謝を高める作用があり、冷えを温めたり、痛みを鎮めたりしますし、そして強心作用をもちます。

用量が多くなれば、動悸や不整脈のおそれがあります。

答えは「3」で決まり。

先にも書きましたが、牛車腎気丸にはもともとブシ(局方ブシ末)が配合されています。

ブシ末と、ブシが配合されている牛車腎気丸とを併用するのは、

基本的には併用注意の組み合わせです。

ブシ末の1日1.5gというのは標準的な用量の範囲内ではありますが、

もし、動悸の副作用を心配しておく必要があれば、ブシ末はもう少し少量から始めてもいいかもしれません。

牛車腎気丸とは

牛車腎気丸について補足しておきますと…

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)というのは、八味地黄丸の別名「腎気丸(じんきがん)」に、膝(シツ)と前子(シャゼンシ)を加えたものです。

もちろん八味地黄丸にも附子(ブシ)は入っているわけですが、

附子の配合量は、牛車腎気丸の方が多いです。

八味地黄丸と基本的な適応は似ています。ですが、しびれやむくみを改善する効果、鎮痛効果も強まります。

八味地黄丸の方もまた、糖尿病性の神経障害(しびれ)に処方されることがあります。

さらに、副作用については、

地黄丸系の漢方薬は、食欲不振、胃部不快感、下痢、等の消化器症状の副作用に気をつけなければいけません。

今回の処方の指示は食前ですけど、場合によっては食後に服用してもらうなどの配慮がいるのかもしれません。

化学療法のあとは(予め吐き気止めが投与されるとしても)、個人差がありますが、倦怠感や食欲不振、下痢が出ることがあるので、

漢方薬を飲むことによって、気分が悪くなり、食事が摂れなくなるということは避けたいところであり、チェックが必要です。

2問目の解答-加工ブシ末の基準について

問題に戻ります。

  1. キンポウゲ科植物ハナトリカブト又はオクトリカブトの葉を基原とする。
  2. 加工調整(修治)によってブシジエステルアルカロイド含量が増加する。
  3. 加工調整法が異なると総アルカロイド含量の規格値も異なる。
  4. 純度試験としてブシジエステルアルカロイド含量の上限値が設定されている。

から、正しいものを2つ選ぶ問題で、

日本薬局方なんて読んだことがないからちょっと難しそう、とはじめ思ってしまうかもしれませんが、

冷静に読んでみれば、

1と2は、附子の基本的な知識があれば簡単に消去できますので、

局方を知らなくても、答えは自ずと「3・4」ということになります。(やはりサービス問題)

第十七改正日本薬局方のブシ

少し省略しますが、下のように定められています。

加工ブシ
本品はハナトリカブト 又はオクトリカブトの塊根を1,2 又は3 の加工法により製したものである.

  1. 高圧蒸気処理により加工する.
  2. 食塩,岩塩又は塩化カルシウムの水溶液に浸せきした後,加熱又は高圧蒸気処理により加工する.
  3. 食塩の水溶液に浸せきした後,水酸化カルシウムを塗布することにより加工する.

1,2及び3の加工法により製したものを,それぞれブシ1,ブシ2及びブシ3とする.
ブシ1,ブシ2及びブシ3は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し, それぞれ総アルカロイド(ベンゾイルアコニンとして)0.7 〜 1.5%,0.1 〜 0.6%及び0.5 〜 0.9%を含む.

ブシは、トリカブトの塊根です。葉ではありません。(選択肢1は間違い)

ご存知の通り、トリカブトには毒があります。ブシジエステルアルカロイド類です。その代表的なのがアコニチン。

ジ・エステルなので、2つのエステル結合をもつアルカロイドです。

加工により、エステル結合を切断すれば、毒性を抑えることができます。

加工調整(修治)によってブシジエステルアルカロイド含量が増加したら困ります。(選択肢2も間違い)

加工法によって、ブシ1・ブシ2・ブシ3と分けられ、それによって総アルカロイド含量の規格値も異なります。

ブシ末(加工ブシ末)の添付文書をみれば、どの方法で加工したものなのかが分かるようになっているはずです。

ちなみに「修治」とは、採集した生薬に何らかの加工(前処理)をすることをいうのであり、

修治=減毒の意味ではありません。

修治の読み方は人によって違いますが「しゅうち」又は「しゅち」。「しゅうち」が一般的なようです。「しゅうじ」と読むと人の名前みたいですね。

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