頻尿・夜間頻尿の漢方薬|体質から整えて快適な日常へ

夜中に何度もトイレ… 頻尿・夜間頻尿を体質から整える

頻尿・夜間頻尿の漢方薬

「トイレが近くて外出が不安になる」
「夜中に何度も起きてしまい熟睡できない」

──こうした頻尿や夜間頻尿のお悩みは、年齢を重ねた方に限らず、若い方やストレスの多い方にも見られます。単なる排尿トラブルにとどまらず、日常生活や睡眠の質を大きく損なう症状です。

一般的な原因としては膀胱や前立腺の変化が注目されますが、、漢方では「腎」の衰えや気血の不足、冷えやストレスなど体全体のバランスの乱れとして捉え、根本からの改善を目指します。

頻尿・夜間頻尿の一般的な原因

頻尿は1日の排尿回数が8回以上、夜間頻尿は夜に1回以上排尿のために起きる状態を指します。
西洋医学的には以下のような要因が考えられます。

  • 加齢による膀胱機能低下:膀胱の容量が減り、少量でも尿意を感じやすくなる
  • 前立腺肥大:中高年男性に多く、尿の出が悪い・残尿感を伴う
  • 過活動膀胱:神経系の異常で膀胱が過敏になり、急な尿意や尿失禁を伴う
  • 全身疾患:糖尿病や心不全に伴う多尿、薬剤による副作用

漢方から見た頻尿・夜間頻尿

漢方医学では、排尿は「腎」の働きと深く結びついていると考えられています。腎は単に尿を作るだけでなく、生命エネルギーの貯蔵や老化の進行とも関係する重要な臓腑です。
加齢や慢性的な疲労で腎の力が衰えると、夜間に何度も尿意で目が覚めたり、尿の切れが悪くなることがあります。これを「腎虚(じんきょ)」と呼び、頻尿の大きな原因のひとつと捉えます。

頻尿の原因と腎虚の関係

腎は「発育・生殖・水分代謝」をつかさどる重要な臓腑であり、加齢とともにその機能は低下します。
特に夜間頻尿は腎虚によることが多いとされます。腎虚には大きく分けて「腎陽虚」と「腎陰虚」があります。

  • 腎陽虚:体を温める力が不足し、冷え・腰膝のだるさ・夜間頻尿が目立つ。尿は透明で量が多い。昼間は機能低下によりむくみやすい。
  • 腎陰虚:体を潤す力が不足し、ほてり・口渇、尿は量は少なく色は濃い。夜間の不眠、寝汗を伴いやすい。

西洋医学的にも、高齢者では抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌低下が夜間頻尿の原因となることが知られています。漢方でいう腎虚と、このホルモン低下の概念は近いものといえます。

気血水でみた頻尿 ― 津液(水)の代謝異常

漢方の基本理論である「気・血・水」のうち、頻尿には特に「水(津液)」の代謝異常が関与します。
津液は体を潤す水分の総称で、その循環には以下の五臓六腑が密接に関わります。

  • 肺:水分を全身に散布し、下に送る(通調水道)
  • 脾:飲食物から水穀の精微を取り込み、津液を生成・運搬する
  • 腎:津液を貯蔵・排泄を調整し、膀胱の開閉を司る
  • 三焦:水分を全身に巡らせる通路として働く

この連携が乱れると、水分が適切に処理できず、頻尿・残尿感・尿量の異常といった症状が現れます。特に腎の働きの低下(腎虚)が中心にあり、肺や脾の弱り、三焦の機能不全が加わると症状はさらに悪化します。

その他の原因

頻尿や夜間頻尿は年齢のせいだけではありません。

体力そのものが不足して膀胱を締める力が弱くなっている「気虚(ききょ)」では、日中もトイレが近くなり、時に尿漏れを伴うこともあります。
また、膀胱に熱や湿がこもって炎症のような状態になり、尿が濁ったり残尿感・排尿痛が出る「湿熱(しつねつ)」も存在します。これは繰り返す膀胱炎と関係が深いタイプです。
さらに、見落とされやすいのが「肝鬱気滞(かんうつきたい)」です。精神的な緊張やストレスが続くことで気の巡りが悪くなり、ちょっとした刺激でも尿意を感じてしまいます。会議や外出時など、不安になる状況でさらに悪化することが特徴です。

ポイント

  • 腎虚タイプ:夜間頻尿、尿切れの悪さ、腰や膝のだるさ
    腎陽虚:冷え・むくみ・透明な尿が多い
    腎陰虚:ほてり・口渇・尿量が少なく回数が多い
  • 気虚タイプ:膀胱を締める力が不足し、尿漏れや日中または疲労時の頻尿が目立つ
    脾気虚:全身の気を生み出す力が弱く、疲労感・軟便を伴い、尿をうまく保持できない
    肺気虚:肺の働きが低下して津液が全身に散布されず、水が膀胱に下降し、尿失禁や頻尿につながる
  • 湿熱タイプ:膀胱に熱と湿がこもり、尿が濁る・排尿痛・残尿感を伴う(膀胱炎を繰り返すケースに多い)
  • 肝鬱気滞タイプ:精神的ストレスや緊張により気の巡りが滞り、尿意が頻繁に出たり、我慢できない尿意が生じる

頻尿に用いられる代表的な漢方薬(例)

同じ「頻尿」という症状でも、背景にある体質によって用いる処方は異なります。例えば、加齢や冷えを伴う腎虚の方には「八味地黄丸」がよく用いられています。腰や膝のだるさ、下半身の冷えを伴う場合に適しています。

  • 八味地黄丸(はちみじおうがん):腎陽虚の夜間頻尿・冷えに
  • 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):腎虚+冷え・しびれに
  • 六味地黄丸(ろくみじおうがん):腎陰虚でほてり・口渇を伴う場合に
  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):脾気虚による尿漏れ・頻尿に
  • 清心蓮子飲(せいしんれんしいん):肺気虚+不安感・緊張で尿が近いタイプに
  • 逍遙散(しょうようさん):肝鬱気滞でストレス性の頻尿に
  • 猪苓湯(ちょれいとう)/五淋散(ごりんさん):湿熱タイプ(残尿感・排尿痛)に

このように、「尿の状態」「体力の有無」「冷えや熱の有無」「精神状態」などを総合的に見極めて選択します。そのため、自己判断で市販の漢方を試すよりも、体質をしっかり見極めることが重要です。

生活養生の工夫

漢方薬に加えて、日常生活の工夫も症状の改善につながります。

夜間頻尿でお困りの方は、就寝前の過度な水分摂取を控えることが大切です。
コーヒーや緑茶、アルコールは利尿作用があるため、夜は特に注意しましょう。
また、腰や下腹部を冷やさないように腹巻やカイロで温めることも効果的です。冷えがある方(腎陽虚タイプ)には特に重要な養生です。

ストレスの影響が強いと感じる方は、深呼吸や軽い運動、アロマやヨガなどで心身の緊張を和らげることが役立ちます。
さらに、ウォーキングや骨盤底筋の体操などで下半身の筋力を維持することは、膀胱機能のサポートになります。

養生法⑦~泌尿器系の不調を整える基本ケア~
前立腺肥大・過活動膀胱・尿路感染症・尿路結石・慢性腎臓病など泌尿器の不調に対し、漢方的な視点から生活・食事の養生法をわかりやすく解説します。

まとめ

頻尿や夜間頻尿は「年齢のせいだから仕方ない」と思われがちですが、漢方では体質を整えることで改善の可能性が十分にあります。
腎虚・気虚・湿熱・肝鬱気滞といったタイプを見極め、それぞれに適した処方や養生法を組み合わせることで、改善と快適な生活が期待できます。

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