顎関節症は、あごが痛む、口が開けにくい、口を開けたときに音がする、といった症状を伴うことの多い状態です。歯科や口腔外科で相談することの多い症状ですが、実際には、あごの関節だけの問題とは言い切れません。
とくに、緊張したときに悪化しやすい、忙しい時期に痛みやこわばりが強くなる、朝起きるとあごが疲れている、といった場合には、ストレスによってあごまわりの筋肉が緊張し続けていることが関係していることがあります。
漢方では、このような状態を「あごの関節の異常」としてだけ見るのではなく、体全体が緊張から抜けにくくなっている状態として捉えます。この記事では、ストレスが関係する顎関節症について、漢方ではどのように考えるのかをわかりやすく解説します。
ストレスが関係する顎関節症とは
顎関節症といっても、その背景は人によってさまざまです。噛み合わせや関節の負担が中心になっていることもあれば、あごを動かす筋肉の緊張が強く関わっていることもあります。
その中でも、ストレスとの関係が強いタイプでは、気を張る場面が続いたり、緊張の多い日々が続いたりすると、知らないうちにあごに力が入りやすくなります。昼間の食いしばりだけでなく、夜間の歯ぎしりが重なっていることもあり、あごの関節やその周囲の筋肉が十分に休めないまま負担を受け続けます。
その結果、あごの痛みやだるさ、開けにくさ、口を開けたときの違和感などが続きやすくなります。顎関節症の中には、関節そのものよりも、こうした筋肉の緊張が大きく影響しているタイプがあるのです。
なぜストレスであごがつらくなるのか
人はストレスがかかると、無意識のうちに体に力が入りやすくなります。肩に力が入る、首がこわばる、呼吸が浅くなる、といった変化はよくありますが、あごもその影響を受けやすい場所です。
あごは、食べる、話す、飲み込むといった動作で毎日使うため、少し緊張が強くなっただけでも負担が積み重なりやすい部位です。しかも、首や肩の筋肉ともつながっているため、全身の緊張があごの不調として現れることがあります。
ストレスが強い方では、昼間に気づかないまま歯を噛みしめていたり、寝ている間にも歯ぎしりをしていたりすることがあります。朝起きたときにあごがだるい、口を開けにくい、こめかみまで疲れている、といった訴えがあるときは、このような緊張の積み重ねが背景にあることがあります。
つまり、ストレス性の顎関節症では、あごだけを治そうとしても十分でないことがあります。体全体が緊張しやすい状態になっているため、その緊張そのものをどう考えるかが大切になります。
漢方でみるストレス性顎関節症
漢方では、ストレスが関係する顎関節症を考えるとき、「肝」と「心」の働きが重要になります。
ここでいう肝や心は、西洋医学の臓器そのものを指しているわけではなく、体の働きを理解するための漢方独自の考え方です。
肝と、筋肉のこわばり
漢方でいう肝は、気の巡りを保ち、筋の状態とも関わると考えます。ストレスが続くと、この働きが乱れて、体が張りつめたままになりやすくなります。
その状態では、首や肩がこりやすくなったり、気分が張りつめたり、イライラしやすくなったりしますが、あごの筋肉にも同じことが起こります。つまり、あごまわりの筋肉がゆるまず、力が抜けないために、関節にも負担がかかりやすくなるのです。
顎関節症で、痛みの強さに波がある方や、緊張した日に悪化しやすい方、首肩こりを伴う方は、この「肝」の失調という考え方が当てはまりやすいです。
心と、眠りの浅さ
もう一つ大切なのが「心」です。漢方でいう心は、精神活動や眠りと深く関わると考えます。不安や緊張が続いて心が休まらないと、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
顎関節症の方の中には、夜しっかり休めていないために、寝ている間も歯ぎしりや食いしばりが続いてしまい、朝になるとあごが疲れている、という方が少なくありません。昼間の緊張だけでなく、夜も十分に休めていないことが、症状を長引かせる原因になることがあります。
そのため漢方では、あごの痛みだけを見るのではなく、緊張の強さ、眠りの質、イライラや不安の有無なども含めて考えます。ストレス性の顎関節症では、「筋肉がこわばること」と「神経が休まらないこと」が重なっている場合が多いのです。
ストレス性の顎関節症で考える漢方薬
顎関節症という名前だけで漢方薬が決まるわけではありませんが、ストレスの影響が強く、体が緊張から抜けにくくなっている方によく使われている漢方薬があります。
代表的なものの一つが抑肝散です。
抑肝散は、神経の高ぶりや緊張が続いている状態に用いられることのある漢方薬で、食いしばりや歯ぎしりを伴う方、首肩のこりが強い方、眠りが浅い方などで検討されます。ストレスで気が張りつめ、あごまで力が入ってしまうようなタイプに適する方剤の一つです。
さらに、筋肉の緊張がとくに強い場合には、抑肝散加芍薬黄連という方剤があります。抑肝散をもとに、筋肉のこわばりに関わる芍薬と、神経の高ぶりを鎮静する黄連が加わった形です。あごのこわばりが強く、朝起きたときのだるさや首肩の緊張も強いような方では、こちらの方が適します。
また、不安感や緊張、不眠が目立つ方では柴胡加竜骨牡蛎湯を考えることがありますし、イライラやのぼせ、月経との関連が目立つ方では加味逍遙散が候補になることもあります。
ただし、同じように見える顎関節症でも、体質によって考え方は変わります。
体全体をみることが大切です
ストレス性の顎関節症では、その背景には首肩の緊張、眠りの浅さ、神経の高ぶり、疲労の蓄積などが隠れていることがあります。
そのため、あごの痛みだけを和らげようとしても、なかなか改善しないことがあります。顎関節症を体の一部分の問題としてではなく、「なぜあごに力が入り続けるのか」という全体の流れの中で考えることが大切です。
歯科や口腔外科で関節の状態を確認することはもちろん大切です。そのうえで、ストレスや緊張の影響が強そうな場合には、漢方的に体全体を見直す意味があります。マウスピースのような局所的な対策と、体の緊張を整える視点は、対立するものではなく、むしろ一緒に考えた方がよいです。
食いしばり・歯ぎしりについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
→[食いしばり・歯ぎしりの原因とは?漢方で整える体のバランス]

漢方相談について
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