夜尿症(おねしょ)の漢方薬
「小学生になっても夜におねしょが続く」「修学旅行までに治したい」──夜尿症は本人にとっても家族にとっても心配の種です。
西洋医学では発達の遅れや膀胱容量の小ささ、ホルモン分泌の未熟さなどが原因とされますが、漢方では体質の偏りを整えることで改善を促すという視点を持ちます。
夜尿症の一般的な原因(西洋医学の視点)
夜尿症は5歳以降も月1回以上のおねしょが3か月以上続く状態と定義されます。
・膀胱容量が小さい
・睡眠中に抗利尿ホルモンの分泌が少なく、尿が濃縮できない
・深い眠りで尿意に気づかない
などが要因とされます。小児の約10%が学齢期でも夜尿を経験し、自然に改善することも多いですが、長期に続く場合は心身のストレスにつながります。
漢方医学から見た夜尿症
漢方では、夜尿症を単なる「膀胱の未発達」とは考えません。尿をコントロールする力は、体全体のバランス──特に「腎」と「脾」、そして「心」の働きと深く結びついているからです。
「腎」は成長・発育や排泄をつかさどり、膀胱の開閉を調整する“ストッパー”の役割を担います。子どもは生まれつき腎の力が未熟であるため、腎虚の傾向を持ちやすく、これが夜尿症の背景にあると考えられます。
「脾」は食べ物からエネルギー(気)をつくり、尿を体内でうまく処理する土台になります。脾の力が弱い(脾虚)と、膀胱を締める力が足りず、尿を保持できずに漏れてしまいます。食が細い、疲れやすい、軟便傾向の子に多く見られます。
さらに「心」は精神と睡眠をつかさどります。心と腎の協調が乱れると、眠りが浅く夢を多く見たり、不安感から夜尿を起こしやすくなります。これを「心腎不交」と呼びます。
このように、夜尿症は腎の未熟さ(腎虚)を基盤に、脾虚や心腎不交が加わることで長引きやすくなるのです。単に「子どもの成長のスピード」ではなく、体質を見極めて整えることで改善を早めるのが漢方の大きな特徴です。
体質別のイメージ
- 腎虚タイプ:体格がやや華奢で成長がゆっくり。冷えを伴い、夜間に尿を保持できない。
- 脾虚タイプ:食欲が弱く疲れやすい。エネルギー不足で尿を留める力が足りない。
- 心腎不交タイプ:神経質・夢が多い・眠りが浅い。不安や緊張で夜尿を起こしやすい。
夜尿症に用いられる代表的な漢方薬
夜尿症の背景には腎虚・脾虚・心腎不交といった体質が関わります。漢方薬は単に「尿を止める薬」ではなく、それぞれの体質に応じて選ばれます。
- 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
体力が弱く神経が過敏な子に。お腹の冷えや虚弱を温め、安心感を高める作用があります。腎虚の基盤に、過敏さが加わるタイプに適します。 - 四君子湯(しくんしとう)
脾虚タイプに。食欲が細い、疲れやすい、軟便気味といった子どもに。エネルギーの源である「気」を補い、膀胱をコントロールする力を支えます。 - 六味地黄丸(ろくみじおうがん)
腎陰虚タイプで、ほてり・のぼせ・口渇を伴う場合に。発育期に体の熱がこもりやすく、夜尿が続く子どもに適します。 - 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
心腎不交タイプに。神経が敏感で夢が多い、眠りが浅い子どもに。心を落ち着け、腎の安定を助けて夜尿を防ぐ効果が期待されます。
夜尿症に使う漢方薬は「おねしょを止める」ことが目的ではなく、お子さんの体質を整え、自然な成長とともに改善を後押しするものです。そのため、体質診断を踏まえて選ぶことが大切になります。
生活養生の工夫
夜尿症に悩むお子さんにとって、いちばん大切なのは安心して眠れる環境です。叱ったり恥ずかしい思いをさせても改善にはつながらず、むしろ自尊心を傷つけてしまいます。お子さんが「大丈夫」と思えるようなサポートを意識しましょう。
まず、日中はしっかり水分をとり、夜は寝る2時間前から水分を控えることで、膀胱への負担を軽くできます。眠る前にトイレに行く習慣をつけることも、安心につながります。
また、夜中にお子さんを起こしてトイレに行かせる方法もありますが、無理に起こすと熟睡が妨げられることもあります。お子さんの性格や体質に合わせて「無理なくできる方法」を選びましょう。
冷えは「腎」の働きを弱めてしまうため、腹巻きやパジャマで下腹部や腰を温めてあげることも大切です。さらに、便秘があると膀胱が圧迫されて夜尿を悪化させることがありますので、野菜や発酵食品を取り入れて腸の調子を整えてあげましょう。
夜尿が続いても、「成長とともに良くなっていくもの」と前向きに捉えることが、親子にとっての安心につながります。焦らず、お子さんの体質に合った漢方薬や生活習慣の改善を少しずつ取り入れることで、自然と改善への道が開けていきます。
まとめ
夜尿症(おねしょ)は成長とともに自然に改善することもありますが、長引く場合は腎虚・脾虚・心腎不交といった体質が背景にあります。
漢方では「腎を補い、気を高め、心を安定させる」ことで、子どもの成長を支えつつ夜尿の改善を促します。
お子さんの体質や生活習慣を含めて丁寧に整えることが、安心できる毎日につながります。

