『神農本草経』における生薬のランク分け

『神農本草経』 とは

『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)は、漢方の三大古典のひとつ。

三大古典とは次のものです。

『黄帝内経』:人体の生理観・病理観について書かれた医学書

『傷寒論・金匱要略』:疾患に対して漢方処方の使い方が書かれた治療書

『神農本草経』:個々の生薬の薬効について書かれた薬物書

この中で『神農本草経』は、現存する中国の最古の薬物書です。

中国の伝統的な薬物を「中薬」といいますが、

中薬の大半は植物(薬草)を基原とするものであるため、古くは「薬学」のことを「本草」と言っていたそうです。

「神農」とは、「黄帝内経」の「黄帝」と同様に、

伝説上の帝王であり、農耕・医薬・商業の神とされています。

『神農本草経』というタイトルは、(神話的に)「神農」が人民のために様々な薬物を自ら試して薬効を調べ、その教えを記録したもの、という体でつけられています。(実際に神農が書いたわけではありません)

くすりのランク分け

『神農本草経』には、365種類の薬物が収録されていて、

上品(120種)、中品(120種)、下品(125種)の3つのランクに分けられています。

上品

「命を養う」薬

上品(じょうほん)は「命を養う」薬です。

健康を保ち、長生きするための薬です。

長期に服用しても害がないものとされています。

人参・甘草・大棗・朮・地黄・桂枝・柴胡・沢瀉・茯苓・麦門冬・薏苡仁・車前子・遠志・細辛・辛夷・升麻・牛膝・阿膠・牡蛎・杜仲・枸杞など。

中品

「養生」の薬

中品(ちゅうほん)は、「養生」(体力を補う、身体を丈夫にする)を目的にした薬です。

病気の予防や体力増強に使われます。

少し作用が強く、病気の治療効果もあります。が、使用量を間違えると毒になる可能性もあります。

葛根・麻黄・当帰・芍薬・川芎・乾姜・黄連・黄柏・黄芩・枳実・厚朴・石膏・知母・竹葉・猪苓・防風・黄耆・呉茱萸・桔梗・山茱萸など。

下品

「病を治す」薬

下品(げほん)は、「病を治す」薬です。

薬効が強いのですが、副作用のおそれもあり、長期の服用には注意が必要とされるものです。

大黄・附子・半夏・杏仁・連翹・牡丹皮・桃仁など。

ランク分けの特徴

トロフィー

もし現代の薬でランキングを作成しようとすれば、

きっと、とても効果が高い、よく効く薬を上位に入れたくなると思います。

しかし、 『神農本草経』 では

病気を治す薬効の強い薬よりも、穏やかに作用して体の治癒力を高める薬の方がランクが上‼

この考え方が伝統的に漢方の特徴的なところです。

作用が強すぎるものは、東洋医学的にはお下品(げひん)なのです。

365という数

さて、

『神農本草経』に収載されている薬物の数は、365種です。

ちなみに、治療に使われるツボ(経穴)の数は、

(現在WHOに認定されているツボの数とは異なりますが、)

『黄帝内経』には、ツボの数に関して「三百六十五穴」との記載があります。

それはともに、1年の日数と同じ。

これはおそらく偶然ではありません。

東洋医学における生体観念によるものと思われます。

人も自然も宇宙を構成しているものとしては同じであり、お互いに影響し合うし、

また、人そのものも小宇宙の要素をもっている、という考え方が反映されているのかもしれません。

補足・注意点

以上は『神農本草経』に関する一般的な内容ですが、

なにしろ古い書物のことですから、補足しておかなければいけないことがあります。

  • 『神農本草経』は最古の薬物書といわれていますが、実際に完全な状態の現物が残っているわけではありません。
  • 後の書物の引用文などから推測し、復元されているものです。
  • 収載されている生薬は重複しているものもあって、正味の数は365種類を満たしません。
  • 有名な生薬もたくさん収載されていますが、日本の漢方では見慣れないものも大半です。
  • そもそも基原がよく分からない生薬も存在します。
  • 上品に入っていても本当は毒性があって現在では全く使用するはずのない生薬も含まれています。
  • よって、例えば『傷寒論』などの古典を勉強するときには有益な内容ですが、単純に生薬や漢方薬を使用する際の参考書としてはあまり適していません。

日本語で読める『神農本草経』の解説本は↓

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