第98回薬剤師国家試験より
問212
(処方)
八味地黄丸エキス顆粒 1回2.5g (1日7.5g)
1日3回 朝昼夕食前 7日分
八味地黄丸エキス顆粒の使用法及び使用上の注意に関する記述のうち、適切でないのはどれか。1つ選べ。
1.本剤には附子が含まれているので、小児等には慎重に使用する。
2.身体を温める作用があるので、冷えのある患者に使用する。
3.流早産の危険性があるので、妊婦には使用しないことが望ましい。
4.主な副作用は、胃部不快感、食欲不振、腹痛などの消化器症状である。
5.高血圧症の患者には使用してはならない。
この選択肢を読んだ段階で、
漢方薬の使用に関して
1.のように「慎重に使用」しなければいけないこととか、
3.のように「使用しないことが望ましい」ということはあり得るけれど、
5.のように「使用してはならない」と言い切れるようなことがあるのか、という疑問をもてば、
八味地黄丸のことを知らなくても、5番があやしい、と見当がついてしまうかもしれませんが・・・
解説
「八味地黄丸」は、腎陽虚に用いる処方です。
加齢にともない、足腰のだるさ、しびれ、腰痛、または頻尿や残尿感などの排尿トラブルがあり、
かつ、身体を温める機能が弱くなり、手足の冷え、疲労倦怠感などを訴えられる場合に用いられることが多い漢方薬です。
構成生薬は、地黄・山茱萸・山薬・茯苓・沢瀉・牡丹皮・桂皮・附子の八味。
このうち桂皮と附子を除いたものが「六味丸」(ろくみがん)です。
ちなみに、次の問213は、
八味地黄丸の構成生薬の1つである附子は減毒のために高圧蒸気処理による修治が行われる。この修治で引き起こされる主な化学反応はどれか。
という問題であり、附子が配合されているというヒントが与えられています。
小児へ適応について
40歳の女性に処方されている八味地黄丸を、小児に慎重に使用する、というところに違和感がありますが、
確かに附子は、熱性で、強心作用があり、新陳代謝を高める薬のため、小児には慎重に用いる必要があってあまり用いられません。
しかし、附子の含まれていない「六味丸」は、小児にも使われています。
冷えについて
身体を温める作用があるので冷えのある患者に使用する。というのは、「八味地黄丸」を使おうとする上での大事なポイントであり、
冷えがあるのだから、「六味丸」ではなくて、桂皮と附子が含まれる「八味地黄丸」が選択できるのです。
妊婦について
附子の副作用への注意もそうですが、牡丹皮が含まれているという点でも、早流産に注意が必要であり、使用しないことが望ましいとされています。
副作用について
胃部不快感、食欲不振、腹痛などの消化器症状は、地黄が含まれる漢方薬で起こりやすい副作用であり、
特に「八味地黄丸」を胃腸虚弱の方に用いると、胃腸障害(食欲減退・下痢)を起こしやすいので注意が必要です。
よって、1~4まではすべて適切だと考えられます。
適応症について
5番の文が適切ではないといっても、決して高血圧だから「八味地黄丸」が適するということではありません。
高血圧の人であっても使われることはあり得る、ということです。
八味地黄丸はメーカー各社から販売されていて、それぞれ効能・効果に書かれている適応症がちょっと違っています。
問題文に、エキス顆粒 1回2.5g (1日7.5g)、とあります。
顆粒ということなので、細粒であるクラシエやコタローのものではありません。
また1日量が7.5gの製剤ということを合わせて考えると、ツムラのものが処方された可能性が高いのではないかと推測されます。
そこで、ツムラの八味地黄丸の添付文書で効能・効果をみてみますと、
「疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互的に冷感と熱感のあるものの次の諸症:腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧。」
と、最後に高血圧が書かれており、保険上も高血圧に使うことは可能のようです。
ただし、
附子を適していない体質の方に使えば、服薬中に血圧上昇を起こすおそれもあります。
補足として次の問題…
次の問213
八味地黄丸の構成生薬の1つである附子は減毒のために高圧蒸気処理による修治が行われる。この修治で引き起こされる主な化学反応はどれか。
- 酸化反応
- 還元反応
- 加水分解反応
- アルキル化反応
- 脱水反応
主な化学反応としての正解は3で良いと思います。
附子に含まれる毒性の高いアコニチン類は、ジエステル型アルカロイドと言われます。
2か所あるエステル結合の部分が加水分解され、モノエステルや、非エステル型になると毒性が減弱されます。(加工ブシ)
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