このページでは漢方薬の「煎じ薬」についてまとめています。
煎じ薬とは
生薬をお湯で煮詰めることを「煎じる」と言います。
煎じる前の状態(調合した生薬そのもの)も煎じ薬と呼ばれます。
「~湯」の名の付く漢方薬の本来の飲み方です。
「湯」はスープを表す言葉ですが、煎じ薬を「湯液」または「茶剤」と表現することもあります。
なお、
「~散」と呼ばれる漢方薬は、生薬を粉末にしたもの。
「~丸」と呼ばれる漢方薬は、生薬を粉末にしたものに蜂蜜などを加えて練り、丸めたもの。
ですのでこれらは本来は、抽出した成分ではなく、生薬そのものを服用します。抽出されにくい難溶性の成分などもまるごと服用するので、使用する生薬の量が少なくて済みます。
ただし、もともとは「散」や「丸」として作られる漢方薬を、煎じて服用することもあります。その場合はよく「~散料」「~丸料」と表記して区別されます。
煎じ薬とエキス剤
一方、近年はエキス製剤が主流になってきています。
病院で処方される医療用の漢方薬や、ドラッグストアなどで購入できる市販の漢方薬のほとんどはエキス剤です。
エキス剤とは、水や溶媒を使って生薬の成分(エキス)を抽出し→ろ過→濃縮→乾燥させたもの。
それに賦形剤や滑沢剤、結合剤などの添加物を加えて、錠剤、顆粒剤、カプセル剤などに製剤化されます。
名前としては「~湯エキス顆粒」とか「~散(丸)料エキス錠」など。
よく煎じ薬は毎日コーヒー豆を挽いて淹れるドリップコーヒー、エキス剤はインスタントコーヒーに例えられます。
さらに例えるとすれば、煎じ薬は毎日ダシからスープをとっているラーメン屋のラーメン、エキス剤はインスタントラーメンです。
味や香りなど本格的にこだわるなら前者、手軽さなら後者です。
煎じ薬も一部のエキス剤のように保険適応になっているのですが、実際のところ、生薬の価格の高騰、調剤の手間などを考えると、保険内の費用では賄えず医療機関の赤字となることが多いため、煎じ薬を保険で処方しているところは限られています。
漢方専門医のいる病院では、煎じ薬も処方してくれるところがありますが、保険診療か自由診療(自費)かは確認が必要です。
煎じ薬とエキス剤の利点・欠点
煎じ薬とエキス剤にはそれぞれどちらにもメリット・デメリットがあるので、まとめておきましょう。
煎じ薬の利点・欠点
利点 | 欠点 |
・香りも含めて生薬の有効成分量が濃い (→エキス剤よりも高い効果が期待できる) ・添加物をまったく使わない ・方剤の種類が豊富 ・オーダーメイドの漢方薬を作ることが可能 | ・煎じる手間がかかる |
エキス剤の利点・欠点
利点 | 欠点 |
・服用の際に手間がかからない、飲みやすい ・携帯ができ外出先でも服用しやすい ・成分量が安定している ・使用期限が比較的長く、長期保管が可能 (ただし開封後は湿気に注意) | ・製造過程で揮発性の成分の多くが失われている (→香り成分の効果が弱い) ・製造過程で食物繊維が除去されている ・製剤化されている漢方薬の種類が限られる ・症状に応じて生薬の種類や量の微調整ができない |
漢方薬と言えばエキス剤を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかしながら、あくまでもエキス剤はインスタント製品であり、本物の漢方薬とは違うものです。
それぞれの特徴を理解して、使い分けをして頂けたらと思います。
煎じ薬の煎じ方
では、実際に煎じ薬を使用するときのことについて。 決して難しいものではありません。家にあるもので手軽に作れます。
煎じる器具を用意する
鍋、やかん、土瓶、などを用意してください。
漢方薬用の自動煎じ器があれば便利ですが、家庭にある一般的な鍋などで大丈夫です。
- 鉄製や銅製のものはNG(薬の成分と反応する可能性があるため)
- 耐熱ガラス、ホーロー、ステンレスはOK
火加減を一定にできるものであれば、熱源としてはガス、電気(IH)どちらでも大丈夫です。
普段の料理で使っている鍋でも問題ありませんが、においが付くことがあるので気をつけてください。
自動煎じ器はタイマーと火加減調節が付いており、ふきこぼし等の失敗がほぼありません。例⇒ニューマイコン 漢方煎じ器 文火楽々(Amazon)
水と漢方薬を入れる
煎じる器具に水(通常 500~600cc)を入れ、漢方薬の袋1日分(1パック)を浸してください。
水は水道水で構いません。浄水した水でも良いです。
ただし、硬度の高いミネラルウォーター(硬水)やアルカリイオン水は避けてください。
漢方薬は、袋(ティーバッグ)のままでも構いませんし、中の生薬だけを入れても構いません。
生薬を袋から出して入れれば、お湯の中で生薬がよく対流するので、成分の抽出効率は良くなります。その場合、煎じた後の器具の掃除が少し面倒になりますが。
自動煎じ器を使用の際は、入れる水の量の調節が必要なことがあるかもしれませんので説明書でご確認ください。
煎じる
火にかけて沸騰したら、ふたをずらして、とろ火(弱火)にし、30分~60 分煎じてください。
最終的には最初に入れた水の量が 1/2~2/3 くらいになるまで煮つめます。
煎じる時間の適した長さは一概には言えませんが、煎じる時間を指示されている場合は、それに従ってください。
できるだけ毎回、同じ火加減で、同じ時間で、煎じるのが理想的です。
もし水の量が少なくなりすぎていたら水(お湯)を足して再び沸騰させてください。
- 人参(オタネニンジン)や知母(チモ)等を煎じるときは、泡が発生する可能性がありますので、吹きこぼれに注意してください。
- 膠飴(コウイ)や阿膠(アキョウ)等、他の生薬を煎じた後に加えるように指示されるものもありますので、用法をご確認ください。
一般的に煎じる時間が短めが良いもの |
・揮発性の成分を多く含む漢方薬 ・葉や花など材質が薄く軟らかい生薬が多い漢方薬 ・長期間煎じると効果が減弱するおそれのある一部の生薬 ・発表作用を期待する漢方薬 ・甘草湯や桔梗湯のような生薬量の少ない漢方薬 |
一般的に煎じる時間が長めが良いもの |
・難溶性の成分を多く含む漢方薬 ・根や種子、鉱物など材質が大きく硬い生薬を多く含む漢方薬 ・減毒加工していない附子(ブシ)などを用いる場合 ・補剤としての効果を期待する漢方薬 |
煎じ終わったら
火を止めてすぐ熱いうちに、漢方薬を取り出してください。
そのとき、漢方薬の袋を強く絞って、袋の中の煎じ液もできるだけ出し切りましょう。
生薬だけを入れて煎じた場合は、アミ・茶こし・ガーゼなどで濾しとってください。
そのまま放置していると生薬のカスが、溶け出た成分を水分と一緒にまた吸収してしまいます。
ガーゼの種類や、カスをこすときの網目の大きさによりますが、煎じた液にわずかに浮遊物が漂っているのが見えることがあります。服用して構いません。エキス剤では除去されていて、煎じ薬でしか摂れない成分です。
煎じ薬の保管方法
生薬は自然由来のものですので、保管方法は少しだけ注意が必要です。
煎じる前
煎じる前の漢方薬(生薬)は、常温で保存可能です。
カビや虫害の発生が心配な場合は、袋に入れて密閉したままで、なるべくは湿気の少ない涼しい所で保管してください。
梅雨時~夏場は冷蔵庫でも良いですが、出し入れによる結露に注意してください。
また、他の食品への匂い移りにも気をつけてください。
そしてお子さんの手の届かないところに保管してください。
膠飴(コウイ)は高温になると、軟らかくなり変形することがありますが、品質上は問題ありません。
煎じたもの(煎じ液)
煎じ終わったものは、ふたのある容器で保管してください。(磁器、陶器、ガラス、プラスチック製のもの)
ご家族など他の方が誤用しないように気をつけてください。
梅雨時~夏場は、できるだけ冷蔵庫で保管するのが望ましいです。
100℃近い温度で30分以上煎じているので殺菌はできていますが、完成した煎じ液は栄養豊富であり、しかも無添加のものですから、そのまま放置すると微生物が繁殖し腐敗するおそれがあるので注意しておかなければいけません。
煎じてからの使用期限の目安 |
・保温ポットでの保管→半日程度 ・冷蔵庫での保管→原則24時間以内 |
煎じ薬の服用方法
特別の指示がある場合はそれに従ってください。
空腹時に服用すると胃もたれを起こしたり、気分が悪くなったりする場合は食後に服用しても構いません。
煎じ薬の香りは、昔ながらの漢方薬独特のものです。エキス製剤では味わえません。ぜひ煎じたときの香りとともに堪能してください。
冷めた薬は、できるだけ温めなおしてから服用してください。電子レンジでも構いません。 冷蔵庫で保管していたものでも、少なくとも室温~体温程度にもどしてください。
ただし、症状によっては冷ましてから服用した方が良いこともあります。
次のような場合は漢方薬に詳しい医師、薬剤師、又は登録販売者にご相談ください。
- 服用後、副作用と思われるようないつもと違う症状があらわれたとき
- 一般の他の薬を服用中の方で、飲み合わせなどが心配なとき
- 2~4週間以上服用しても何も効果を感じないとき(薬が合っていない可能性があります。)